ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
787/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている787ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

第26回優秀賞代にICBMとSLBMを配備して以来、何らかの理由で偶発的に核ミサイルが発射され、コンピューターの誤作動で核攻撃が行われる危険性は残る。したがって、意図せざる核戦争勃発=「ボタン戦争」を排除していくには、弾道ミサイルの全面禁止は重要である。以上のように水爆の禁止と弾道ミサイルの全面禁止が可能になれば、米国とロシアは、原爆を搭載した爆撃機に戦略核戦力を依存することになる。そうなれば、核弾頭(原爆)が搭載された爆撃機を簡単に迎撃することは困難となる。したがって、米国とロシアは抑止論に固執しても、弾道ミサイルなしで相当の抑止力を保持できる。このような水爆禁止と弾道ミサイル禁止を実現するには、米ロ以外に中国、英国、フランスを含む軍縮交渉が不可欠である。しかし、この五ヵ国の軍縮交渉はいくつかの問題点がないわけではない。たとえば、中国とフランスが保有する地上配備の中距離弾道ミサイルの扱いである。中国とフランスが中距離弾道ミサイルを保有し続けたまま、米国とロシアが弾道ミサイルをすべて手放すとは考えられない。二つ目が、長距離飛行が可能な戦略爆撃機を持たない中国、英国への影響である。弾道ミサイルを全廃した場合、中国と英国に不利に働くとの反論が予想されることだ。いずれにせよ、同じ運搬手段を規制するにしても戦略爆撃機だけを残そうとするよりも、核保有五ヵ国が保有する少数のSLBMだけを残す方策が現実的であるという意見もある。しかし、核兵器に対するシビリアン・コントロールをより確かなものにするには、戦略爆撃機オンリーに限定することが得策であるといえる。最後に、戦術核の全面廃棄も重要な課題である。冷戦が終結すると米国とロシアは軍縮の合意を待つことなく自主的に戦術核の撤収と解体に着手した。しかし、地域的な軍事衝突に対応するには、戦術核のほうが効果的であるとの考え方もある。だが、戦術核がある限り戦略核だけの世界よりも、核戦争の可能性が高いことは否定できない。戦術核の役割が低下している今こそ、自主軍縮を条約化して、核保有五ヵ国の戦術核全廃条約づくりを目指すことが必要である。以上のように、一連の核軍縮が実現すれば核抑止論は残るとしても、原爆を搭載した戦略爆撃機による抑止力に限定することができる。そうすれば、「ボタン戦争」の偶発的核戦争の危機を回避でき、大いに安全性が高まることになる。785