ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第26回最優秀賞第六章残された課題以上、論者は核兵器廃絶に向けた取組みと廃絶可能性を高める提言を論じてきた。当試論は骨子であるから、論理の道筋から外れる議論は割愛した。しかし、その中にも現実に核兵器廃絶を進めるなら、大きな障壁に成り得ることがある。当論文の最終章として大きな障壁に成り得る事項について主要三点を検討する。第一はテロリストが核兵器を開発する危険性である。テロリストが核兵器を保有する危険性は昨今盛んに議論されているが、ここで議論するのは核兵器が廃絶された世界を安定的に継続させるためのテロ対策である。現在議論されているテロ対策は核兵器が存在することを前提としている。核兵器が廃絶された世界では当前提を置く必要はない。このことはテロリストが核兵器を保有する危険性を減少させる一方、テロリストがたとえ僅かな核兵器を開発しただけでも極めて大きな脅威となることを意味している。この脅威を克服することがNWAT成立には必要だ。核兵器が廃絶された世界でテロリストが核兵器を開発する手段は平和的核利用技術の転用である。現時点では軍事利用と民生利用の間には大きな懸隔があり、転用は困難であるが、平和目的の核エネルギー開発の名目で保障措置の間隙を縫って兵器級核分裂性物質を製造する事例はある*16。更に、今後民生利用のための技術も進歩していくだろうから、NWATが核兵器のない世界の永続を保証するためには軍事利用への転用が不可能となるよう民生利用技術の研究自体に制約を加える必要が出てこよう。この主張には違和感を持つ方々も多いであろう。自由な研究が技術発展の源だからである。しかし、先例はある。遺伝子工学の領域では倫理的観点から2000年に「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が成立し、ヒト胚などを人や動物の体内に移植する研究をクローン人間作製につながる行為として、罰則を科して禁じている。繰り返すが核兵器のない世界とは再核軍備に脅える世界であり、国家が核兵器を保有していないだけになおさら、テロリストが民生技術を軍事利用に転用することは絶対的に阻止しなければならない。現在よりも踏み込んだ対策が必要である。これは民生利用技術の将来動向によって発生可能性のある危険性として「残された課題」である。*16「原子力の平和利用戦略に係る調査・研究」最終報告書文部科学省2003年759