ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

けを内包すること)を満足させるための条文である。国際原子力機関(IAEA)による包括的保障措置は順次強化され、また、追加議定書による強化も図られている。現在でも設計段階からの対応等新たな手法、国内体制の整備・強化等が検討されている*10。しかし、現在の査察は機微な余剰核物質が存在する中、IAEA査察官が機微な情報に触れることなく検認を行う手法となっていた*11り、核兵器技術漏洩懸念に配慮した手法である。NWATが発効した時点ではこのような配慮は無用であるし、ある国が再核軍備を行う危険性を勘案すれば、現在より更に厳正な査察が求められる。そのため、通常兵器に関する軍事機密漏洩懸念が残ることから抵抗はあろうが、偵察衛星による探索など核兵器がない世界に相応しい新たな対策を実施する必要がある。尚、NWATは発効まで数十年を覚悟した条約である。その間、核技術は進歩していく。核兵器を廃棄する詳細なプロトコルと査察の実効性を保証するため、核技術の進歩と共にその内容を継続的に見直さなくてはならない。そのため、継続的な見直し条項も同時に規定することが必要となろう。第五章NWAT締結の可能性を高める取組みと国連の役割当論文の目的は核兵器廃絶の可能性を論ずることにある。ここまでNWATの内容を検討してきたが、その成立の可能性は今後の核保有国の国内事情の変化に左右される。将来の情勢変化を現時点で確言することはできないので、NWAT成立の可能性も確言できない。しかし、その可能性を高める取組みを提言することはできる。NWATの最大の欠点は国内事情の変化による為政者の核兵器廃絶に対する方針の揺れを当てにしている点にある。条約締結の可能性を高めるためには核兵器廃絶を約さない国々の世論を喚起し、為政者の核兵器廃絶方針転換を促進することが有用である。彼らは世論の動向に多くの場合敏感である。国際司法裁判所(ICJ)が1996年自衛権による使用には合法、違法の判断を下さなかったものの、核兵器による威嚇・使用は一般的には国際法に違反するとの勧告的意見を出した。当意見には強制力は無いが、核兵器廃絶に向けたNGOを始めとした様々な組織の活動の理論的支えになっている。(好循環の例である756*10「核不拡散にかかわる状況について」原子力委員会国際専門部会第三回資料内閣府2009年10月*11 ?「原子力平和利用における保障措置の観点からみた核軍縮に関連する核物質の検証措置のあり方」坪井裕、神田啓治日本原子力学会和文論文誌Vol.1, No.1(2002)。尚、「機微な余剰核物質」とは核物質の形状等に核兵器の技術情報が含まれているような余剰核物質のことを言う。