ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第26回最優秀賞い中では、この最初の条件で議論が行き詰る。そこで「核兵器を廃絶する意思があるか?」という質問を「他の全ての国々が核を廃絶したならば、核兵器を廃絶する意思があるか?」という質問に変形してみよう。NWATはこの変形された質問に同意する国々が加盟する条約である。他国からの核脅威に対する自国の安全保障が核兵器保有の動機であるなら、安全保障が約束された状況を想定したNWATに加盟する国々は存在するだろう。これは一つの成果である。しかし、残念ながら核脅威に対する安全保障だけが核兵器保有の動機ではない。例えば、北朝鮮は自国の主権を認め、安全を保証し、経済開発を妨げないことを条件に核計画を廃棄できるという主張をして*9いる。諸外国との対立構造を反映して、他国からの干渉防止も目的としているのであり、安全保障の確保だけでは全ての国々がNWATに加盟するとは想定できない。そこで、二番目の条件、すなわち、時間軸の概念が導入された条約成立への取組みが重要となる。先述したような質問の改変を試みても、核兵器保有を選択する国々は存在するであろうし、そもそも「他の全ての国々が核を廃絶したならば」という仮定が将来の姿である。当仮定が成立する将来を待って、その時に核兵器を廃絶することを、今、約する条約がNWATである。現在、「他の全ての国々が核を廃絶」しても、自国のみは核を保有する意向の国々も時間の経過の中で方針が変わるかもしれない。時間軸概念の導入とはこの方針変化を期待するという意味である。方針が変わった時に条約に加盟させる、そのために必要な対策をその時点の状況に沿って、適切に立案・実施するという主張である。(この項は第六章で再論する。)論者は前章で核兵器問題への対応は国内事情や政権交代などで方針が変わると述べた。核保有国も核兵器に対する方針は振れるのであって、この振れを活用する考え方である。オバマ演説で表明された米国の方針変化はその実例である。単に国内事情の変化を待つ姿勢に疑義ある人たちも存在するだろう。一つの例を提示する。化学兵器禁止条約(CWC)はその締結に向け1925年に交渉が開始された。そして、実際に締結されたのは1997年であり、その間、実に72年の時が流れた。それなりの事情があったものの、条約の締結とはこのようなものであり、喫緊に条約を締結するという*9「北朝鮮問題解決に向けた取り組みについて」沖部望?世界平和研究所753