ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第26回最優秀賞たれているインド、パキスタン、イスラエルは締結していない。また、条約とは各国の国内事情がその運用に影響を与える実例となったことも明記しなくてはならない。2000年NPT再検討会議では「核兵器廃絶への明確な約束」などを盛り込んだ最終文書を採択できたが、同時多発テロなどを経験し、国の安全保障に対する危機感が高まった後の2005年NPT再検討会議では実質的事項に関する合意文書を採択できなかった。核兵器不拡散という国際問題が国内事情を反映させるという意味では、米印原子力協定の調印というNPT体制の永続性に疑義を抱かせる事例もある。インドがNPT未加盟国であるにも関わらず当該協定が調印に至ったのは米国の対中国を意識したインドとの関係強化、インドの巨大な原子力市場への参入が狙いと推測されている。原子力供給グループの議論は紛糾したものの、インドへの核燃料の提供を例外的に認めることとなった*3。自国の外交戦略及び経済戦略が国際社会の大儀に優先することを如実に物語る行動であろう。このように各国の利害が対立する中では、利害を一にする多数の国々の共同取組みも重要となる。この多国間共同取組みの代表的事例が非核兵器地帯の設置であろう。NPTでは既核保有国以外の国々は核兵器を生産・保有しないことを約しているが、非核兵器地帯条約では加えて他国の核兵器を配備させないということも約している。現在、トラテロルコ条約(中南米地域)、ラロトンガ条約(南太平洋地域)、バンコク条約(東南アジア地域)、ペリンダバ条約(アフリカ地域)、セメイ条約(中央アジア地域)の五つの条約が締結されている。このような条約が全世界に広がれば、核兵器廃絶に向けた大きな一歩となろう。しかし、これらの条約も成立を目的として核兵器保有国に対し譲歩しており、その譲歩が核兵器廃絶という目標に対して障壁を形成している。例としてバンコク条約を見てみよう*4。当条約第7条(FOREIGN SHIPS AND AIRCRAFT)では外国の船舶及び飛行機が無害通航では無い通航を認めるか否かの判断を条約加盟国個々の判断としている。条約は域内10カ国が調印すると共に核兵器保有国も議定書に署名・批准することになっている。(そうでなければ実質的効力は期待できない。)核兵器保有国、特に米国が当該地域での核を利用した軍事行動を制約する条約に批准しないであろうことから、条約加盟国が譲*3「核兵器をなくせるか?」富田宏治他共著かもがわ出版*4このパラグラフは「「核兵器なきアジア」を目指して」金子熊夫東海大学教養学部紀要第27輯を参考にした749