ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第一章核兵器問題に向けた取組み核兵器問題に対する多種多様な取組みの全てを記述することは現実的では無いし、意味も無い。当章では核兵器廃絶問題の特質を理解するという目的に照らして、典型的と考える取組みを国際機関の取組み、多国間の共同取組み、二国間交渉の3領域に区分して、簡単に振り返る。最も重要な国際機関の一つである国連は核兵器問題に一貫して努力を傾注している。例えば、1994年から毎年国連総会では核兵器廃絶決議を賛成多数で採択しており、2009年度決議では反対が2カ国、棄権が8カ国のみという結果であった。しかし、国連総会の決議は原則として勧告でしかないので、核兵器廃絶決議でもこれら反対、棄権国が無くならない限り、実質的意義を有することにはならない。今年度は米国も決議の共同提案国になった。クリントン政権時代は決議に賛成していた米国はブッシュ政権時代には決議案に反対していた。オバマ政権となり、単なる賛成から一歩踏み込み、共同提案国となったことは一定の成果である。しかし、核兵器廃絶という長い年月を必要とする取組みに対し、政権が変われば対応も変わるという事実は今後も一進一退が続くことを予言するようで、手放して喜ぶことではない。別の例を挙げる。1996年国連総会で包括的核実験禁止条約(CTBT)が採択された。しかし、当条約が発効するためには原子炉を保有する全ての国の批准を条件としており、9カ国が未だ批准していないため、現在発効していないし、先進国側と開発途上国側の対立が深化しつつあるなど、今後発効する見通しもない*1。結局、僅か数カ国の意向が障壁となり、実質的意義を有し得ないのだ。パン・ギムン事務総長は2008年10月の演説「国連、そして核兵器のない世界における安全保障」の中で「核兵器のない世界」を改めて訴えたが、同時に「願望の域を出ていない」との認識をしめした*2。各国にその道義的責任を問うことは重要なことであるが、実質的意義を有することとの間には懸隔がある。発効しているという視点では代表的取組みに核兵器不拡散条約(NPT)がある。現在、190カ国が加盟しているが、核兵器を保持している、または、保持しているとの疑念を持748*1「国際機構におけるグループの政治力学」齋藤智之外務省調査月報2008/No.1*2訳文は「広島県医師会速報(第2036号)」を引用