ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

(2)文化コードの調整機能近代システムは、欧米の合理性に親和的である点はよく指摘される。開発援助機関が、よく練られた計画を導入しようとしても、なかなか現場での理解や信頼が得られずに、事業がうまく進行しないという話は枚挙に暇がない。下条によると、情報の送り手が情報を選んで流すことで情報そのものが偏る「サンプリング・バイアス」があり、受け手の側にも、自分の信じたいものだけを受け入れ、その方向だけの情報が優先的に記憶されると言う「動機バイアス」があるという。そして、双方が重なり、受け手の嗜好に合わせた情報が供給されるようになると情報の独り歩きが始まると説明している(下条2003)。また、住民の計画への参加は、例えばゲーム理論でいうところのナッシュ均衡と見ることもできる。ナッシュ均衡とは「他の人たちが選択を変えない限り、誰も自分の選択を変えようとはしない状況(藪下2002)」である。このように考えると、文明・文化・民族・宗教などの多元的な価値を包含する概念や情報を用いて様々な問題にアプローチすることは高度な技能を伴う作業である。まして、普遍的で、一元的な価値観を決めるということは無謀であることは言うまでもない。むしろ、人間が生活する上で実際に行われる「慣習的なプラクティス(田辺1989)」の部分に人々の共有できる価値を見出していくことは自然である。しかしながら、世界が共通の問題を抱え、協力し合う必要性がますます高まっている今日、伝統的な共同体はいまだ生活を単位として重視することが多いとされるが、「生活の単位」と「制度の単位」をバランスよく取り入れ、より大きな枠組みとのネットワーク化を密にすることで、相互補完的な仕組みを設ける必要性がある。グローバリゼーションは「グローバルに多様性を推進する(ロバートソン1997)」と言う意見もあり、こうしたグローカリゼーションは、地域社会における生活合理性の枠組みが注目されている表れである。そこで、これら地域多様性を活かし、文化の違いに起因する社会組織や価値観の違いを調整できる専門機関は設けられないだろうか。例えば、第2節で言及した補完性原理は、欧州共同体という比較的文化的な背景に共通性の高い地域の上で成り立ったものであり、アフリカにおける共同体の中で、補完性原理を機能させるためには如何に中立的な仕686