ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第25回優秀賞ており、地域共同体は多国間・多層間(地球規模、広域圏、国家、地域)におよぶ環境保全に関する国際約束の効果的な実施を担保するための重要なプレーヤーと位置づけられている。地域共同体の特徴を見ると、多くの社会で地方政府など行政機関を設けてはいるが、その社会の基層構造に、地縁・血縁集団における伝統的慣習による制度が色濃く残されていることがある。地域共同体に見られる自然環境は、生活世界に暮らす住民の日常の延長線上にあり、これらは時に賃金労働ではなく、旧来の人間関係社会に起因する諸処の価値観に左右されており、特定の親族に属する私的な活動領域に置かれていることがある。地域のプレーヤーとして、地域共同体が主体となって実施する取組は、住民の生活世界と密接に関連しており、予算に左右される外国政府あるいは中央政府からそのまま持ち込まれる事業計画や、補助金を前提とする活動では、地域共同体にとっての持続可能な開発を確保することは難しい。インターリンケージを通じて、地域共同体に蓄積された経験や技能を活用しながら、地方行政府、中央政府などの各レベルのフォーカルポイント(focalpoint)が、国や地域の枠組みを超えた専門知識や技術を共有し、相互に不足分を補完し合う取り組みは、地球規模の取り組みの実現可能性を高めるものと考えられる。一般的に、厳しい財政情況にある開発途上国において、国際約束を履行するためには、国家財政に見合わない莫大なコストを要求されることがあることはよく知られている。インターリンケージを有効に活用する為には、外部の資金に依存しすぎるよりも、地域共同体の日常生活のなかに、共同体の取り組みを継続的に実施する為の「資金メカニズム」がビルトインされていることが重要であろう。継続した活動が求められる分野においては、外部の予算などの要因に大きく左右されるべきものではなく、その費用や労働力を継続的に賄えるシステムが組み込まれた状態により常時維持されている必要がある。生活世界の枠組みが社会の単位として考えられる地域共同体を尊重し、活用する理由はここにある。683