ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

ヒントを得たものである。ただし、田中の視点と本論文の視点には決定的な違いがある。田中は、1市場経済の成熟・安定、2自由民主主義の成熟・安定という二つの基準軸を設け、新中世圏、近代圏、混沌圏の三つに国家を分類している5。市場経済、自由民主主義という指標は、本論文で言うところの近代化=共時化の達成度を示すものに他ならない。しかし、近代化の指標で国家を分類しても、田中の主張する「新しい『中世』」をもたらす動因は見えてこない。ポスト近代を記述するのに近代化の指標を用いたのでは、「近代ではない何か」として消極的にポスト近代を捉えることはできるが、その「何か」を積極的に捉えることは原理的に不可能である。これに対し本論文は、近代共時システムの再通時化という観点を導入することによって、ポスト近代を積極的に捉えようとするものである。再通時化国は近代化が達成され、循環型社会へと向かおうとしている国である。出生率は低く、人口は概ね横ばいとなっている。ひとりあたりのカロリー消費量、エネルギー消費量が多く、環境に対する負荷は大きい。一方で近代共時システムの限界に対する認識が高まっており、様々な次元で環境問題に対処するために、次世代をも視野に入れた通時システムが検討されている。共時化国は、今まさに近代化=共時化を目指している国である。経済活動が急速に拡大し、ひとりあたりエネルギー消費も急増してる。それに加えて人口も増加しているため、環境負荷は急速に増大することになる。未共時化国とは、近代化=共時化のプロセスを経ていない、もしくはそれに失敗した国である。国家の外枠自体が植民地宗主国などから強制された場合が多い。伝統的価値が重視され、議会制度、司法制度、官僚制度などの近代的諸制度は十分に機能しておらず、経済的に貧しい。出生率は非常に高く、人口爆発が起きているところもある。資源・環境問題に対する意識は低いが、経済規模が小さくまた伝統的価値観が支配的なこともあって、環境負荷は他の二つのグループに比べれば小さい。しかし、薪炭材の伐採、過放牧、不十分な灌漑による塩害、砂漠化、輸出向けの森林伐採など、深刻な環境問題を665田中明彦『新しい「中世」-21世紀の世界システム』(日本経済新聞社、1996年)192-196頁。