ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第17回優秀賞が成り立つことになる。こうして、新古典派経済学に代表される旧来のパラダイムに代わる新たなパラダイムが、様々な次元で模索されるようになった2。「持続可能な発展」の概念は、それらのうちで最も有名なものであろう。この概念は一九八〇年代に登場し、一九八七年に「環境と開発に関する世界委員会」が発表した「Our Common Future(通称、ブルントラント・レポート)」によって、広く普及した。ブルントラント・レポートが、持続可能な発展を「現在世代のニーズと同様、将来世代のニーズも損なわない」発展と定義している3ことに注目する必要がある。ここには、現在世代のみならず、近代共時システムから排除されてきた将来世代が、利害当事者として再登場している。これは、共時システムをほぼ完成させた近代社会が、再び通時システムを模索し始めた「再通時化」現象と見ることができる。いちはやく近代化=共時化を成し遂げたイギリス・フランスなどのヨーロッパ諸国は、アジア・アフリカ・北米などへ植民地獲得に乗り出し、多大な利益を得た。二十世紀においても、「国際機構の枠組みや貿易の秩序は先頭を切って工業化の道を進んだ国々によって作られた」4のであり、近代化=共時化を達成することは、国際社会で中心的役割を果たすための重要な条件となった。こうした状況の中で近代化に乗り遅れた国は、国際的に不利な立場に置かれ、一方的な資源供給国の地位に甘んじたり、先進国経済の強い支配下に置かれたりすることが多かった。このため、大多数の国家が近代共時システムを確立することによって国際的に有利な地位を得ようと努めることとなり、近代化=共時化の度合が概ね国際的な影響力に比例することになる。(二)国家の三類型世界には近代化=共時化度合の異なる国家が併存し、また最近では、再通時化を模索する国も現われている。共時化の度合を基準とすると、国家は概ね三つのグループに分けることができる。三つのグループとは、再通時化国、共時化国、そして、未共時化国である。このように国家を三つのグループに分ける発想は、田中明彦の「新しい中世」の議論に2ガレス・ポーター、ジャネット・ウェルシュ・ブラウン(細田衛士監訳)『入門地球環境政治』(有斐閣、1998年)28-31頁。3環境と開発に関する世界委員会(大来佐武郎監訳)『地球の未来を守るために』(ベネッセコーポレーション、1987年)。4クライブ・ポンティング(石弘之、京都大学環境史研究会訳)『緑の世界史(下)』(朝日新聞社、1994年)265頁。65