ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

より、無秩序な森林破壊を防止する、などが考えられる。ここでも農業技術支援を行うが、45それは農民の技術習得能力の向上を目指すものであって高度の農業技術の移転を主目的とはしておらず、プロジェクト終了後の持続性を担保するためにも地域の土地利用形体に適した在来技術46に修正・改善を加えるという形をとるべきである。古くからその土地に適合していた技術を先進国にある新しくより良いものに置き換えてしまうことの問題点は持続性だけではなく、導入技術や導入品種は地域の生態系に十分に適合できない場合もある。そのため、地域の自然生態系や社会システムとの共存が可能な在来技術を有効利用するべきなのだ。どうしても新しい技術を導入しなければならないときなどはコミュニティ47の文化や社会的条件、地域資源などを考慮し、在来技術と導入技術を融合した中間技術として定着させるのも一つの手段である。このように政府ではなく地域住民を直接支援することで貧困48の解決および熱帯林保全に寄与するような国際援助の枠組みを国連や国際機関(UNDPや世界銀行など)が協議することが望ましいと考える。終章総括地球環境問題と熱帯林(森林)の減少・劣化は密接不可分の関係にあるため、早急に解決が求められる重要な課題である。しかしながら南北間の対立が原因で国際的法的枠組みは未だに成立していない。熱帯林の多くを保有している途上国の立場からすると、土地利用(国家主権)を制限されてまで森林を保全するインセンティブが全くないため、グローバル経済下の市場において価値があるとされる木材や換金作物に替えてしまう。そこで「熱帯林保有国(途上国)の森林保全に伴う経済的損失を誰がどのように補填するのか」について考察した。結論としては中立性が担保される国際的な組織であるUNFCCCやGEFに先進国が資金を拠出し、そこから熱帯林保有国の経済的損失を補填する、というシステムを提案した。それ以外にもCDMなどを通じて先進国から途上国への技術支援を積極的63045結果を重視する経済開発型援助とは異なり、社会開発型援助ではプロセスを重視する。46 市場経済のグローバル化は途上国の農村地域にまで入り込み、地域規模での経済活動を認めない。そのため、手間暇かかる在来手法での生産コストと、大量生産による低コスト農産品との価格競争が起こり、在来技術の活用を妨げる要因となっている。このような大規模資本と協同組合的な弱小資本との競争に対してNGOがフェア・トレード運動を起こしている。47例:地元の資源(果樹)を用い、無形の技術(接木)のみを導入48 途上国の二重経済(都市地域では近代的な商工業、農村部では伝統的な農業)も問題である。農業部門では限界生産性がゼロの労働力が存在しているため、二重経済により労働力需要が増加しても賃金の上昇が発生しない。