ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第24回佳作言い換えることが出来る。キャパシティ・ビルディングにより地域住民に意識化が生じ、自らの置かれている立場を認識する。そこには自己変革41と他者との相互解放42が含まれ、住民の自立・自助能力の向上に繋がるのだ。次にコミュニティ開発とは、集落住民の積極的な参加と集落自身のイニシアティブを最大限に信用しながら集落全体の経済的・社会的進歩を創造するように計画された過程、と定義することが出来る。個々人が自己変革を持続的に維持していくことは困難だが、グループとして行動することにより、連帯や共生という社会的行為に関する能力を取得することが出来るのである。しかしながら伝統43に基づく既存の枠組みではコミュニティ開発は難しいため、外部から何らかのインパクトを与えて変革をもたらす必要がある44。例えば地域住民に政治的な権力を付与することで、自分の土地を持つことが可能になれば、その土地を担保に借金をすることも可能になる。また、途上国の中には森林(収入源)を国有地としている国も多いが、公的所有・私的利用という状態であるがゆえに過放牧や焼畑などが起こり、「コモンズの悲劇」に至ってしまう。しかし、私的所有・私的利用となれば私的利益の持続的追求のために資源を枯渇させないよう持続可能な利用をするようになると考えられる。そして生活基盤整備とは、人間として必要な生活水準(医療、保健衛生、教育、栄養状態など)の確保および地域社会全体の生活環境(山地崩壊、洪水の防止、治安、灌漑など)の整備のことである。これらを先の例に当てはめてみると、農村での農業技術開発(経済的貧困の解決)の場合、1優れた農業技術体系を導入して生産性の向上を目指すとともに、品質改良等により市場での販路を確保する。2単位面積当たりの農業生産性を高めることにより、農地の拡大速度(森林消失速度)を低減させる、などが考えられる。これだとプロジェクト対象地域には効果があっても、周辺地域への普及やプロジェクト終了後の持続性に問題があった。また、対象地域内で所得格差が広がり、弱者に恩恵が行き渡らない。しかしながら農村での社会開発(社会的貧困の解決)の場合、1農業技術や生産性の向上を目指す以前に、医療や生活環境の整備、ジェンダー、農民組織の活性化など、農民の自覚による農村コミュニティの活性化を目指す。2農民が環境保全を考慮した土地利用計画を作成できる能力を養成することに41住民が自らの生活に目覚め、自分に自信を持つこと42伝統的かつ保守的な組織のしがらみからの解放43ジェンダー、カースト、家父長制など44各地域の特性を踏まえた社会的合理性が存在するので、価値の多様性を尊重する。629