ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

途上国が、森林資源の利用に制約が加えられることを危惧してこれに反発し、さらに、先進国からの資金や技術の移転、木材製品に対する市場アクセスの必要性や、熱帯林ばかりでなく先進国自身の森林も経済発展とともに大幅に減少・劣化してきた歴史背景にも議論が及び、森林問題が南北の利害対立の構図の中で議論された。このような南北の利害対立により、地球サミットでは法的拘束力を有する「森林条約」に関するコンセンサスは得られなかった。しかしながら国際社会が森林問題に対処していく上でのよりどころとなるよう基本的原則について国際的な合意を得る必要があるとの立場から、とりあえず各国が現実的に可能なところから合意すべきとの結論に至り、「森林原則声明27」が採択され、その後の国際的な森林問題に関する取組や政策対話の基礎をなしている。3-2.国際的法的枠組みを成立させるためにたしかに森林原則声明は森林に関する初めての世界的合意であり、「持続可能な森林管理」の概念を確立させたばかりでなく、その後の森林に関する国際的な政策対話や取組みの「原点」とも言うべき位置付けにあり、その採択の意義は大きいと言える。しかしながら「森林原則声明」は条約と違って「全ての種類の森林の経営、保全及び持続可能な開発に関する世界的合意のための法的拘束力のない権威ある原則声明」という長い命名のもとでこぎつけられた妥協の産物28であり、内容でも拘束力の点でも完全に骨抜きになったとみなされ、「チェンソー憲章(Chain-Saw Charter)」と批判された。しかもこの声明には、条約を実現させるための交渉を義務付ける条項がなかったため、外交エネルギーの一部は砂漠化条約の交渉に向かってしまった。近年では、地球サミット以降の様々な国際的取組み29や政策対話の成果もあり、南北の対立を脱却して「パートナーシップ」の確立を目指す動きも広がりつつあるものの、基本的な構図に変化は見られない。やはりこの問題に関しては声明(努力目標)ではなく国際的法的枠組みを作る必要性があると考える。近年の国際的な環境問題では二段階の交渉方式30が採用されることが多いが、前述のとおり熱帯林に関しては未だ森林条約の採択には至っておらず、森林原則声明62427 森林に対する各国の主権の確認、森林の保全・回復及び持続可能な経営の実施に向けて各国は努力し、国際社会は協力すべきこと等、森林の保全、持続可能な経営・開発の実現に向け国レベル、国際レベルで取り組むべき項目の内容を規定。<外務省HPより>28「地球環境問題とは何か」より29例)森林に関する政府間パネル(IPF)、森林に関する政府間フォーラム(IFF)、国連森林フォーラム(UNFF)30 最初は義務規定を設けずに今後の協力についてのみ合意し、科学や技術の進展に合わせて、条約のもとに具体的な義務規定を定めた議定書をおく。例:オゾン層保護に関するウィーン条約→モントリオール議定書、気候変動枠組条約→京都議定書