ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

が、後者の普遍的義務は対世的義務とも呼ばれ、すべての国が国際社会の一般共通利益の実現のため国際社会全体に対して負う義務である。対世的義務については、国際司法裁判所(ICJ)はバルセロナトラクション事件8において、次のような判決をしている。「本質的な区別は、国際社会全体に対する国家の義務と、外交的保護の分野で他国と相互的に生じる義務との間に描かれる。それらの性質により、前者はすべての国家に関する事項である。援用される権利の重大さを考慮して、すべての国家が、それらの保護に法的利益を有し、それらが対世的(obligation erga omnes)義務である。」また、国連国際法委員会(ILC)の国家責任条文案の第二部第二章41条では「国家が国際社会全体に対して負い、かつその基本的な利益の保護のために不可欠な義務」の重大な違反、つまり、普遍的義務の違反がある場合には、被害国のみならず、それ以外の国も違反国に対して責任を追及できるとされている9。オゾン層破壊や地球温暖化は国際社会全体に被害を与えるため、すべての国家が国際社会に対して責任を有すると考えられる10。しかしながら、そうした地球環境に関する義務が対世的義務として確立されているか学説は分かれる。そうした中で、モントリオール議定書は、非締約国に対しても対抗力を有している。この議定書の第四条は非締約に対して貿易を禁止・制限している。条約の目的は以下の3点で有益である。まず、非締約国は条約に参加しなければ市場から排除されるため、締約国になる必然性が出てくる。次に、規制物質の生産者が関連施設を規制がゆるい海外移転することで、規制から免れることを防止する。そして、文字通り、普遍的なため条約の「フリーライダー」を防止できる。こうした、同レジームに参加すれば多くの報酬が得られる11一方で、参加しなければ規制対象になるというのは、協力の機会を増大させるのによい方法である。世界各国が利益も損益も分かち合う「平等な体制」作りはこれからの国際法には必要であろう。例えば、ゲーム理論でいう「スタグハントゲーム」状態に持ってくる事によって、戦略的相互依存関係6088「バルセロナトラクション(電力株式会社)事件(第二段階)」『I.C.J.レポート1970』32頁33段落。M. Ragazzi『対世的国際義務の概念』(Oxford, Clarendon Press, 1997)9太田宏「地球環境ガバナンスの現状と展望」日本国際法学会編『日本と国際法の100年第六巻開発と環境』112頁。10同上112-113頁。11議定書の第十条に資金協力を規定し、10-Aに技術移転についての規定を定めている。