ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第24回優秀賞第Ⅲ章国連の役割――シナリオAへのロードマップでは、限りなくシナリオAに近付けるために国連には何ができるのだろうか。まず役割を考える前に、国連を定義づける必要があるだろう。国連は大別して2種類、つまり「自ら動く国連」と「国際社会が動かす国連」がある。前者は、UNHCRやUNESCOといった国連の補助機関や関連機関を指し、各専門分野で国際社会の牽引役となる。後者は国連総会や安全保障理事会を指し、国際社会の交渉の場として活用される。ここで述べる「国連」とは前者の「自ら動く国連」のことであり、特に「気候変動に関する国際連合枠組条約事務局」(United Nations Framework Convention on ClimateChange:UNFCCC 11)を念頭におく。以下で国連がポスト京都議定書を「シナリオA」に近付けるための役割を考えるが、それにはまず、問題の所在を明らかにしなくてはならない。「シナリオA」を支持しないアメリカ・中国・インドの主張をみると、これらの国が消極的な理由が、1 GHG削減による経済活動への負担、2 GHG削減のための技術の不足、3温暖化の被害対策費に加えてGHG削減対策費を捻出することは困難である、の3点にあることが分かる。このことから、米・中・印に「シナリオA」を納得させるには、これらの国の懸念事項を軽減することが有効となるが、国連はいかにして取り組むことができるだろうか。まず第一に、の懸念事項である「経済活動への負担」については、「経済活動と環境対策」の両立を可能とした京都メカニズムの活用が有効となる。京都メカニズムとは、京都議定書の削減目標達成のために用いられる3つのメカニズムの総称で、UNFCCCがまとめ役を担っている。この京都メカニズムの中でも、途上国と先進国間の取引を目的とした「クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism:CDM)」は中国とインドに大きな経済的利益を生む。国連は今後とも、多くのCDM案件を承認し、ポスト京都議定書までの5年間で中国とインドの経済への負担を軽減しつつ、両国のエネルギー効率を高めることが重要だ。11 UNFCCCは、「大気中のGHG濃度を、気候システムに対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準で安定化させること」を究極的な目標として、気候変動の国際的な対応のための枠組みを定めた条約、およびその運営組織。1992年、ブラジルのリオデジャネイロで開催された国連地球サミットで署名され、現在は191カ国の加盟国を有する。UNFCCCの締結後、附属書I国と呼ばれる先進国と市場経済移行国のCO2排出量を2000年までに1990年比に安定化する努力目標を設けたが、この目標には法的な拘束力がなく成果は思わしくなかった。そのため、締約国の間で排出削減の義務化が必要との声が強まり、1997年に京都議定書が採択された。「究極的な目標」や「共通だが差異のある責任」の原則は京都議定書にも引き継がれた。UNFCCC事務局は、京都メカニズムのまとめ役も担っている。591