ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第24回最優秀賞数の条約交渉アプローチを推進することである。現在の京都議定書では、各国間の亀裂は深刻である。事実上排出枠をもっているのは欧州と日本だけであり、日本が仮に次期約束期間の交渉から離脱してしまえば、数値目標を持つのは欧州だけになり、京都議定書はひとつの地域条約になってしまうかもしれない。すると、欧州内でも政治的支持がなくなり京都議定書は事実上消滅してしまう可能性がある。このような末路をたどった国連機関は、たとえば国連貿易開発会議がそうであるが、先進国の支持が得られず活動が停止していった。代わって先進国がしたことは、関税及び貿易に関する一般協定(GATT)をてこ入れすることで、これが世界貿易機関(WTO)という世界貿易の問題解決の機関となり、やがて中国をはじめ途上国も参加するようになった。同様のことが、京都議定書にも起こりえる可能性がある。国連は、多国間交渉の失敗に備えて複数の条約交渉の場を設定しておく必要がある。それは、将来の多国間合意に回帰するための求心力ともなるであろう。そして第三に、こうした複数の条約による部分的国際合意が次々と締結されていった際に、それを管理・運営する体制を国連に設立することである。最初は、穏やかな取り決めから始まり、整備が進んだ段階でより拘束力の強い取り決めを締結していくであろうが、その集積された条約を管理していくことが国連に求められている。GATTが発展的解消したように強い調整力をもった機関を将来的に国連に設置していく必要がある。(2)国連の役割~制度改革面での課題~次に制度面で、国連に期待される役割は、以下のとおりである。第一に、地球環境問題が細分化され、個別課題ごとに条約事務局が設置されているが、実質的には国連事務局間の総合調整は形式的なものになってしまい、地球環境問題の総合的なアプローチができていないことである。地球温暖化問題のような自然現象は、相互に関連している事象がほとんどであり、全体的な視点が求められる。たとえば、国連環境計画(UNEP)は、オゾン層保護レジームなど約70のレジームの条約事務局を果たしているが、立地場所がナイロビであり、国際機関から離れた場所になり好立地とはいえない。また、他の多くの条約事務局は、国連環境計画(UNEP)の外に置かれており、レジームの管理・運営も各条約で571