ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

4.国連の役割~トータルな支援活動ができる国際環境機関設立に向けて~以上のように、京都議定書を持続可能性な制度として構築するために、複数の条約によるアプローチから検討してきた。その背景には、京都議定書のように「上からの数値目標」を決めていくやり方は、さまざまな利害関係や状況が異なる国家間では合意を得られないため、米国や発展途上国が参加できる合理的かつ効果のある新たな枠組み作りが求められるという要因があるからであった。それでは、このような新たな枠組み構築に向けて、国連はどのような役割を担っていくことが必要か。地球サミット以来の経過を振り返ると、国連では、個別環境問題の対策に進展は見られても、総合的に環境問題に取り組まれていないのが実情である。将来、持続可能な社会を構築するのであれば、世界各地で起こっている新しい取り組みを加速し統合していくことが必要となり、国連が総合的アプローチの中枢的役割を果たすことが期待されている。そのためには、持続可能な開発を世界規模で支援していく国連の組織改革は不可欠である。そこで、以下では国連の役割について、国際的合意のプロセス面と制度改革面からみていくことにする。(1)国連の役割~国際的合意のプロセス面~第一に、国連は「ボトムアップ方式」の国際的枠組みの形成を推進していくことである。国連の場は、どうしても多国間協議となるため交渉に時間がかかり、交渉が決裂する可能性を秘めている。そこで、相互利益を共有する「部分的連合体」をつくり、世界標準をつくり、それを履行していくことである。現在のCOPの交渉方式では約150か国の代表が集まり、数千人のNGOが監視するため決定が遅い。さらに、交渉に裂かれるエネルギーの損失は大きい。「共通利益」を共有する連合交渉であれば部門ごとに専門家が出席することで交渉もスムーズになる。共通の目標に向けた「ボトムアップ方式」を積み重ねることで、技術論や達成可能な議論が中心となり透明性や実現可能性も確保される。さらに、共通の関心事項であれば、各国の企業、専門家、市民が参加できるため民間の関与の度合いが高い。そうすれば、密室度の高い京都議定書の決定よりも民主的な決定方式となろう。第二に、国際的組みが完全に崩壊するリスクを減じるためにも、これまで述べてきた複570