ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第24回最優秀賞うに包括的で拘束力は弱いが、政治的に正統性付与が高い条約が今後の温暖化対策において不可欠である。(3)経済開発を持続させ気候に配慮していく条約グループ京都議定書では、交渉プロセスで温暖化問題に開発政策を盛り込むことの重要性が明らかとなった。発展途上国にとって、持続的開発は大きな課題であり、持続的開発の中に温暖化問題を盛り込むことで、効果的温暖化政策が実行される可能性が高い。反対に、持続的開発と切り離し、温暖化対策を講じても実行性は乏しい。この問題意識の基づき、持続的開発政策に温暖化問題を盛り込むために援助資金のメカニズムを修正することに合意する条約グループを形成する。ここでの目標は、あくまで持続的開発目標を貫くことである。この目標に基づき、様々な資金援助が見直され、こうした開発に優先的資金が向けられることになる。京都議定書では、温暖化防止についての拘束的排出削減コストは経済成長の制約という非常に高いものになることが明らかになった。途上国が削減目標を担うことで生じる追加費用はGDPの約1%であり、温暖化対策だけで途上国に対してこれほどの資金移転を行うことができる先進国は存在しないであろう。排出権取引を通じた所得移転もありうるであろうが、途上国に新たに排出枠を与えてしまうことや排出権価格が低下してしまうことなどから、多くの先進国にとって受け入れ難い。このように、先進国が途上国の追加費用を負担する論理は限界があるのである。そこで、それ以外の方法として既存の国際金融機関や政府間開発援助(ODA)を通じた資金フローを梃子にして資金援助メカニズムを修正することが必要なのである。この条約で温暖化防止のための資金フローの修正を盛り込むことを先進国は約束とする。具体的には、既存の援助フローを利用することで、現在の京都議定書で議論されているよりも大きなフローで発展途上国に資金援助が実現できるであろう。たとえば、マラケシュ合意で拠出された総額は、年間4億ドルで微々たるものであるが、日本のODAは、年間100億ドルである。ODAのような資金の流れを温暖化政策とリンクさせることで、途上国の開発政策に環境の視点を盛り込むことが地球温暖化防止対策に不可欠である。567