ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

複数の問題を同時に解決することで合意を可能にする手法である。こうした「パッケージ・ディール」は、とりあえず合意を生むためには有効であるが、合意の大半は抽象的であり、具体的行動に結びつくものは少ない。そこで、現行の京都議定書に盛り込まれている事項を個々に独立させ、複数の事項に関して「共通利益」を見出す国々が集まって条約を作りだしていく「複数の条約によるアプローチ」の手法を提案する。単一の問題に集中して条約を作りだし、不必要なリンクは排除する。たとえば、京都議定書では、CDMにおいて、実施するたびに発展途上国への適応のための支払いを実行することになる。このようなリンクは、人為的であり交渉を複雑化する。個別問題ごとに交渉することで、利害関係者は大きく減少し、その結果、各国の担当者は交渉に参加しやすくなり意見や考え方を言いやすくなる。あまりにも、利害関係者が多くなると交渉に参加しても時間がかかり、「パッケージ・ディール」が複雑に絡み、抽象的な取り決めになる。それでは、具体的に「複数の条約によるアプローチ」についてみていくが、まず、これまで述べた問題点の反省により、四つのコンセプトが世界の国々で共有されることを想定する。そのコンセプトとは、1実現性、2持続可能性、3協調性、4長期・継続性である。以上四つのコンセプトについて、コメントすると、1は、現在の国際的条約の枠組みとは別に意思を同じくする国々が省エネ・効率的エネルギー政策で主権の侵害がない形で交渉の場を形成されることを想定している。2は、技術開発と経済開発を国々の国益に即して持続発展が可能な将来枠組みを構築し、温暖化対策のための資金フローを途上国に振り向けることを想定している。3は、敵対的関係を避けて国際的交渉がより生産的になるように、国々が問題枠を「排出量割当て」とは異なる「共通利益」となるような目標設定をすることを想定している。4は、世界が持続的開発を可能にするには、エネルギー消費を押さえ込むような短期的な排出削減ではなく、長期的技術革新による温室効果ガス削減目標を設定することを想定している。この4つのコンセプトを考慮して、異なる「相互利益」に基づいて多様なアクターが、柔軟な枠組みを形成して、様々な分野で協調する枠組みを注1)想定する。具体的には、以下の3つの条約グループが想定される。564