ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

8.9トンであり、米国の19.91トンの約半分である。西側先進国の平均である12.58トンよりも低い。この日本の誇るべき立場が京都議定書では強調されていない。そして削減目標にも問題がある。日本は、エネルギー効率の面で世界においてもっともよいのに、その利点が国際体制に反映されていない。むしろ、EUに有利な仕組みとして議定書の国際体制が構築されていることである。EUは、2005年に東欧諸国を取り込み、拡大EUでは、すでに7.7%減と義務を達成するレベルになる。日本の義務達成の困難さに比較すれば、京都議定書の負担は明らかに国際間で衡平性を欠く。こうした衡平性を欠くルールが継続されれば、参加国の離脱が起こり解体の危機を生じる可能性すらある。(4)京都議定書が課している削減効果は実効性に乏しい第四に、温室効果ガス総量は、多岐にわたる経済活動、世界市民の日常生活から排出されているため、自由経済を前提にすれば政府がその排出総量をコントロールすることは極めて困難であることである。政府が、その義務を確実に果たすとすれば国際的に排出権を購入してつじつまを合わすなど計画経済的手法を取り入れざるをえない。さらに、民間の生産・投資活動に対する政府介入が必要条件となるような国内排出権取引制度導入が提案されかねない。また、各国とも家庭部門や自家用車による排出は増加傾向にある中で、これらの排出削減を政府が強制することは、国民のライフスタイルに対して介入することになり、民主国家の根底にある「個人の自由の国家権力からの保護」という価値観と対立してしまう。発展途上国に削減義務が課されていないため、このままでいけば2020年には削減義務のない発展途上国の排出量は49.8%となり、先進国の予想排出量である39.8%を大きく上回ることが予想される。このまま、京都議定書が着実に実行されたとしても、義務を負わない発展途上国の排出が増え、議定書から離脱している米国や豪州などの排出も減少することはないため、京都議定書の削減効果は実効性の乏しいものとなろう。(5)京都議定書は負担を直視した冷静な議論が少なかった第五として、これまでの地球温暖化対策は「地球のため」というイメージが先行し、負担を直視した冷静な議論を積み重ねることが少なかったことも大きな課題である。地球温562