ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

ことに合意し、第二に共通の土俵に各国を乗せるための緩めの目標を設定する。そして将来、科学技術が進歩して排出技術が高まり、一般の関心が高まるにつれて削減数値を強化して削減手段に関する合意を積み上げていく手法をとる。このようなプロセスを経ることで実質的削減方策を検討していくことが京都議定書の方式であった。ところが、こうした「枠組条約」の手法は、最初から躓いてしまった。最大の問題点は、「排出削減を割り当てる」という形で対策の枠組みを設定したことである。この結果、交渉自体が敵対的になり国家間に不信が生じ、交渉は行き詰まりの状況を呈している。しかし、京都議定書が発効した今、国別の削減枠を元に戻して再交渉して実効性のある削減に合意することは不可能であり、今後の課題は、今まで提起された課題をどのように解決されるかが問われることになる。そのためには、以下の問題がクリアされなければならない。(1)京都議定書は技術の視点が欠けている第一に、京都議定書の最大の問題は、「技術」の視点が欠落していることである。温室効果ガスは、人類の生活や生産活動から否応なく発生する。したがって、経済発展や生活水準の向上を追及する限り、温室効果ガスの排出増加は避けられない。したがって、経済発展と温室効果ガスの抑制・削減を両立するには、画期的な技術の登場によるブレークスルーが必要とされる。しかし、画期的な技術革新のためには、ある程度のリードタイムが必要であり、温暖化防止の国際的取り決めも、相当長期的な時間的枠組みをもたなければ、真の解決策たりえない。その点、京都議定書は2008年から2012年の5年間を約束期間として、技術革新を期待するには短期的視野で期間を区切っている。そのため、議定書参加国は、エネルギー消費を押さえ込む政策(cap & trade方式)のような短期的排出抑制策に偏重することになってしまう。画期的な技術革新への研究投資は劣後し、短期的な漸進的技術開発のみが優先されてしまう。このような縮小均衡政策を促進する国際的取り決めは、到底「持続可能性」があるとは思えない。(2)京都議定書による交渉は外交ゲームである第二に、京都議定書のように数値目標を規制の前提にすると、交渉が科学的でなく外交560