ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第23回佳作鎖が続くかぎり、人間としての生存要求の実現が、いつの間にか人類としての生存を脅かす可能性が日々大きくなっている。快適を求め、その要求に応えて競争に勝ち、さらに大きく成長する。一見、正の連鎖、発展のスパイラルを歩んでいるという錯覚に陥ってしまうところに問題の根深さがある。しかも、国境を超えた環境破壊においては、一国政府の努力の限界があることも事実である。三章人口移動と地球環境問題の視点三-一過疎と過密の環境問題人間は自らの権利と尊厳のために、それが得られる地を求めて移動をする。それは、やむを得ず生存のために移動する人々や、経済的理由の出稼ぎ、さらに彼の地での長期滞在や永住をするものも多い。何もその動きは国境を超えたものだけでなく、国内での人口の移動の方が実は制度上、言語上の障害が少ない分、顕著に現れるはずである。例えば、一般には身分と職業の固定、居住地域が制限されていたとされる江戸時代においてさえ、人々は藩を超えて出稼ぎや移住をし、都市に永住するものも多かったことが、歴史人口学者の速水融(あきら)氏の宗門改帳に基づいた研究で明らかになっている。江戸時代は、耕地面積も漸増しており、一方で人口が横ばいだったことを考えると、人類の移動行動はかなり強い欲求ということも考えられる。戦後の日本では、産業構造の変換に伴って農村から都市へ人口移動が発生した。これら人口移動に伴う地球環境問題としては、過疎と過密に伴う2方向の弊害が考えられる。過疎地域の環境問題として、耕地の放棄に伴う病虫害発生などの衛生環境の悪化や傾斜地などの崩壊、狩猟対象野生動物の増加に伴う自然体系の攪乱や人間への危害、長期的には地域の事情に即した農業技術(や伝統文化)の途絶、過疎地域への公共サービスコスト(エネルギー消費)の増大、地球環境問題としては、食料生産減少が食糧危機を招く恐れもある。これらは、新たなタイプの環境問題として平成18年版環境白書総説1に詳しく記述されている。545