ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第22回佳作問題は、喫煙の害なら誰が見てもわかるものであるのに対して、地球温暖化も核の脅威も感覚的には理解できても、「今そこにある危機」として受け止め、対策を真剣に考えるにはあまりに対象物が巨大であり、具体論に行き着く前に思考停止に陥りやすいことだ。7.温暖化防止の切り札は経済の論理、企業の論理だが、解決への糸口は既に地球温暖化防止をめぐる世界の動きに垣間見られる。もちろん、先に指摘した通り、地球温暖化防止をめぐる国際間の動きは決して楽観できるものではない。2005年末から再スタートを切った温暖化防止のための効果的な国際メカニズム作りも早くも難航している。唯一方法論として実効性を担保していると思われるのが、排出権取引(図表3を参照)など一連の京都メカニズム5に係る動きだ。しかもそこでの主役は国家ではなく民間なのだ。2005年9月、ドイツのボンで開かれた温暖化防止に関する国連の理事会。排出権獲得のために国連に世界初の登録申請をしたのは住友商事だった。計画では、住友商事が温暖化ガスの一種であるフロンの削減事業をインドで実施、獲得できる排出権は年間約500万トンで、現在の市場価格で換算すると同社は排出権の売却で毎年約2,000万ト?ルを得られることになる。住商のような国連への申請・承認には至っていないが、日本政府が承認した企業による海外事業での排出権獲得事業は既に10数件にのぼる。環境対応でははるかに日本の先を行く欧州。EUでは2006年1月から域内の大企業に対して、政府が企業ごとに温暖化ガスの排出枠を割り当てる新制度が導入された。対象となるのは約13,000社。排出削減で割当枠を下回るか排出権購入で枠を排出量より広げられないと、企業には罰則金が科せられ、さらに排出権購入での穴埋めを義務付けられる。新規制の導入で排出権取引市場は一気に拡大し、2005年は1億5,000万トン近くが欧州市場を中心に取引されたと予測される。但し、そこにあるのは個別国家の意志ではなく、EUという共同体であり、域内民間企業だ。今や、世界唯一の超大国として強力な軍事力、経済力を誇る米国が、その絶大な影響力5 海外における温暖化ガス排出削減量または初期割り当てを、自国の排出削減約束の達成に利用することができる制度の総称。共同実施(先進国同士が共同で事業を実施し、その削減分を投資国が自国の目標達成に利用できる)、グリーン開発メカニズム(先進国と途上国が共同で事業を実施し、その削減分を投資国(先進国)が自国の目標達成に利用できる)、排出権取引(各国の削減目標達成のため、関係国同士が排出量を売買する)の3制度がある。485