ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
485/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている485ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

第22回佳作占める該当者の割合)を表したものだ。この1日当りの生活費1ト?ルは先のミレニアム開発目標2でも基準値として採用された。図表からも明らかなように、世界全体としてみれば確かに生命維持に必要な限界水準(poverty line)とされる1日1ト?ル前後で暮らす人々は減っている。だが、地域別に仔細に見ると、改善度には大きな開きがある。2015年時点で国連が独自に推計した該当者比率と、「1990年比で比率を半減させる」ことによって達成される比率とを比べた場合、どちらが上にきているか、あるいはほぼ同じ水準域に収まっているか。誰しもが納得するのが、「奇跡」を起こしてテイク・オフに成功した東アジア、インドなどエマージング・マーケットを抱える南アジア、そしてオイル・マネーに沸く中東地域などが目標値を大幅に上回る改善を示すことだ。欧州も目標値と平仄を合わせるように貧困層の撲滅に成功して行く。対するサブサハラ・アフリカ地域とラテン・アメリカ、カリブ海地域は依然、飢えに苦しむ人々を救い上げる努力がなかなか実を結びそうにない。こうした貧困の罠に陥った地域と紛争・難民の大量発生地域とを単純にダブらせ、「貧困の解消⇒テロ・暴力の根絶」といった単純な図式を描いても生産的でないことは十分承知している(現に東アジアでも北朝鮮が成長の恩恵を受けられないでいる。但し、同国の場合は世界で冷戦構造の崩壊に伴う平和の配当に浴せないでいる数少ないサンプルの一つであり、検討には別の視点が必要だろう)。だが、押しなべて冒頭から指摘してきた潜在的な核開発・保有国は国内的には貧困層を大量に抱え、時の政権が対外的な国威発揚策の一つに核を持ち出す、というアナクロニズムから脱却し得ないでいるのは、事実であろう。そのことがまた、反政府組織の活動余地を生み、武力としての核武装に突破口を見出させる口実をも与えているだろう。国際情勢における「利益(経済)」と「武力」の関係についてみてきた。「衣食足って礼節を知る」とも言う。“経済至上主義”のお叱りを覚悟で、ここでは「貧困」の根を絶つこと、つまり「利益」を増大することが、「暴力」の温床を最小化し、引いては本来、人間の安心・立命に不可欠であるはずの宗教心(あるいは特定のものではないこの世の大きな存在への2 2015年までに以下の課題を達成するとの具体的な数値目標。2000年9月に全世界の首脳が参加した国連ミレニアム・サミットで採択された「ミレニアム宣言」に含まれる国際的な公約で、1貧困対策として「1日1ト?ル未満で生活する人々の割合を半減する」、2教育対策として「初等教育の完全履修を達成」などが盛り込まれた。483