ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

るべきだという前提に立つ。つまり、現実主義は人間を悪くも良くもない存在として捉える凡人観に基づく認識、と言える。彼は次のようにも表現する:「軍備廃止という提案に対する人々の態度には、一人よがりの理想主義や偽善のかげがつきまとっている。一部の人々は軍備廃止の正しさを理由に、それを実現するために努力を繰り返すだけで、実際にその努力が何の成果をも生み出さないことを深く反省していない。その他の人々は、その実行不可能性を知るが故に、敢えて反対せず、現実がその実行の不可能性を証明するのに任せるという、無責任で偽善的な態度をとっている。その結果、軍事力の均衡による平和の代案としての軍事力なき平和は、おびただしい量の提案、原則的賛成、目覚しい努力、そして完全な失敗という印象的な記録を残してきたのである」。2.核拡散をめぐる現実の動き高坂が『国際政治』を世に問うてから40年。彼が扱ったのはあくまで冷戦構造が変わらないものと認識されていた時代の国家間の状況であり、これほどまでの核兵器の拡散もまた彼の存命中には見られなかった現象であろう。だが、彼の展開したロジックは思いのほか現在世界に蔓延する核拡散の進行現象の解釈にも当てはまるようにも思われる(あるいは国際政治の世界は高坂の想定内で展開し、その限界もはっきりしてきた、と言うべきかもしれない)。以下に現下の核をめぐる状況を概観しよう。末尾の図表1は、過去2年間の核拡散および軍縮をめぐる悲惨な成果を、時計の針を逆に回すスタイルで見たものだ。もちろん、事態の深刻さは年表に登場した潜在的核保有国のなし崩し的な拡大、いわば国際政治版の南・北核対立激化だけにあるのではない。冷戦終結後既に約15年を経過した今も米ロという旧二超大国間の北・北核対立は終わっていない。2002年5月、米ロは「戦略攻撃兵器削減条約(モスクワ条約)」に調印、1990年にそれぞれ約1万発ずつだった両国の戦略核の数を、2012年には1,700~2,200発にまで削減478