ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第22回佳作ものである。この観点から、核拡散が「必ず防止すべき極めて深刻な問題」として受け取られ、1968年7月にNPT(核兵器不拡散条約)が調印される。ちなみに同条約は、現在189カ国が調印(2005年12月現在)しており、世界最大の調印国を有する条約となっている。NPTを中心とした核不拡散体制は、冷戦期においては核兵器国内、特に米ソ内の核兵器数が増加する問題、いわゆる「垂直拡散」を抑制することはできなかったものの、核兵器を保有する国を抑止するという、いわゆる「水平拡散」についてはかなり有効に機能した。冷戦期には垂直拡散が主たる核問題であったが、冷戦後の今日は、冷戦期とは正反対に水平拡散の危険性が強く懸念されている。なぜ今、核拡散なのかここにきて水平拡散が懸念されることとなった背景には3つあると考えられる。第1は冷戦崩壊による安全保障環境の変化である。すなわち、冷戦期は米ソ両超大国の対立による緊張が世界に張り巡らされていたため、その他の国が独自に不穏な動きをする余地はなかなか無かった。その緊張が緩和したところで不穏な動きを引き起こした例が、1990年8月に突如としてクウェートに侵攻したイラクのサダム・フセインであったといえるであろう。加えて、その両核超大国に2分されていた時代は、核開発に対する米ソからの圧力も強かったことももちろんではあるが、米ソによる所謂「核の傘」が同盟国または友好国に開いていると考えられていたため、その恩恵にあずかっている国はそれほどまでに核開発を追及する必要性もなかった。実際、米ソは核拡散防止体制においては常に共闘体制にあり3、水平拡散を抑制することは米ソの利害が一致するところであった。だが、冷戦後になると米ソ対立の構図が無くなった故に、核の傘が自国に対ししっかりと担保されているか不透明な状況が生じてきたのである。そこで、自国の安全保障が極めて不安定な状況下に置かれていると思った国は、「核の力に安全保障を依存するしかない」3今井隆吉『科学と外交』(中公新書、1994年)70ページ。465