ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第22回優秀賞結語北朝鮮核問題を見ると、イラク問題に比べた場合のアメリカの興味関心レベルの相対的な低さと、中国のような域内の重要な利害関係国の現状維持の国益、そして北朝鮮がもつ時の利益とが絡まりあい、交渉妥結が遠のいていることが窺えないだろうか。NPTを脱退し、IAEAの査察官を追放し、独自に核開発を進めて「ならずもの国家」同士手を携える北朝鮮に対しては、既存の国際組織や規範的なアプローチは役に立たなかった。ところが、六カ国協議のような、アドホックで柔軟な枠組みは、少なくとも北朝鮮を交渉のテーブルに着かせることには成功した。そこでは、北朝鮮に対し強い影響力を持つ中国、北朝鮮に対し歩み寄れる韓国、重要な利害を有する日本、そして強硬な態度を保持し、最終的な強制力までも持つ、アメリカの存在がそれぞれの役回りを演じている。ただし、現状の固定化に利益を見出す国や政府の存在や、より真剣で柔軟なアプローチの欠如が、北朝鮮の核保有、そして世界全体への核拡散を防止する機運を削いでいる。ここまで観察してきた北朝鮮像は、「他国を信用せず、自力で生きていくしかない北は核保有を諦めにくい」ということを示唆している。北朝鮮の核開発のごく初期はともかく、90年代の初めを辿れば、冷戦後北朝鮮が置かれた孤立的な状況、G.H.W.ブッシュ政権の冷淡な対応は彼らの核路線を形作ったのではないかと考えられる。だからといって、北朝鮮による核の使用はまた別次元の話であり、また外部条件の変化により政策目標は変りうることは強調せねばならない26。ところで、現在の北朝鮮の核問題は、前回の1994年枠組み合意に至った経緯を考えると、いったい何年の時点に戻ったのか。または全く別の次元へ移行したのだろうか。北朝鮮は1994年の危機の時点からあまり変わらず、アメリカと国交・不可侵条約を結ぶか、核抑止しかないとの決意を秘めているようである。北朝鮮のHEU開発のインセンティヴは、主にアメリカへの不信感と機会主義から来ており、それが解消されなければ膠着状態から抜け出すのは難しいといえる。アメリカは上述のように、9.11以後は別次元へ移行しているつもりだが、クリントン政権時に比べて武力行使の可能性・許容性もそれほど高まって26 万が一、危機がエスカレーションしたとしても、北朝鮮当局者が「ソウルを灰にする」決定を行う勇気があるかどうかは疑問の余地がある。それは彼らの決定的滅亡を意味するし、湾岸戦争後のフセイン元大統領のように、限定的空爆を耐え忍ぶならば少なくとも暫くは生存しうるからである。したがって、アメリカと北朝鮮のチキンゲームで、北朝鮮も最後まで突っ走る捨て鉢な勇気があるかどうかわからないのである。455