ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

である可能性もある16。それでも、イラク問題がCIAの失敗に終わったとはいえ、アメリカ政府の情報が完全に間違っているとは言い切ることはできない。最近になって、クリントン政権で北朝鮮のHEU疑惑を指し示す証拠が上層部に提示されながらも見過ごされたというリークも報道されている17。では、北朝鮮のHEU開発意図はどこにあるのか。北朝鮮はもともと核開発を目指した経緯がある。米朝枠組み合意下で支援を受けつつ、隠蔽可能な形で核開発をしようとしたことは十分考えられる。ここでウラン濃縮と従来のプルトニウム濃縮がどのように異なるかを見ると(表参照)、HEU開発はプルトニウム濃縮に比べて施設分散の観点から衛星からの隠蔽が容易であり、HEUは起爆装置実験が不要で隠密に開発ができる利点もある。ウラン資源を豊富にもつ北朝鮮としては、濃縮ウラン技術は民生利用にも応用が可能で、軍部を中心に推進する動きがあったことは容易に推察できる。仮に、枠組み合意違反の政治的リスク、証言の信憑性などを考えに入れても、HEUの開発意図までは高い蓋然性があるといえる。米朝の不信に基づく枠組み合意がいつ崩れるかわからない状況で、北朝鮮は隠蔽が容易ならば核開発をする意図があったのではないか。アメリカ国内の共和党を中心とした北朝鮮早期崩壊論や米朝枠組み合意に対する懐疑論18、クリントン政権の米朝国交正常化交渉の頓挫は、北朝鮮をして不信感を抱かせただろう。450162004年2月5日、テネット長官のジョージタウン大での講演(Woodward(2004),pp.438-441)17 2004年2月19日毎日新聞記事では、前政権当局者が匿名で98年ごろに濃縮ウラン開発計画をクリントン政権が把握していたと述べたとする。さらに、2005年5月15日にクリントン政権時のNSC上級アジア部長、ケネス・リバーソルがそれを改めて明らかにし、5月16日付けの日経新聞で報じられた。18たとえば、アーミテージ・ドクトリンはクリントン政権の北朝鮮政策を批判し、早期崩壊論のような楽観的な見方を強く戒めるとともに、北朝鮮の核開発疑惑を踏まえて抑止と封じ込めを駆使した包括的アプローチ、枠組み合意の見直しを提唱している。