ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第22回優秀賞カの国内問題であるところの軍削減との関連が大きい。アメリカの保守的な勢力は、国内での国防費削減圧力に対抗するため、大量破壊兵器問題の懸念を常に煽り、政策とリンケージさせてきた1。これらの勢力が、大量破壊兵器の脅威や、そもそもの脅威の不確実性(たとえば非国家主体による核物質テロなど)を、国防機構の温存、そしてミサイル防衛の推進のための正当化のために、ある程度利用してきた感がある2。イラクの大量破壊兵器疑惑、北朝鮮核危機もアメリカが抱えている脅威感を高めさせる結果となり、さらには9.11同時多発テロもその効果をもたらした。アメリカは、拡散安全保障構想(PSI)などを通じ、有志の多国間枠組みを作り上げる努力を行ってきている。PSIについては、米国による一極主義的な試みとしてこれを非難する向きもあり、既存の不拡散体制との整合性の問題はあるものの、大量破壊兵器等関連物資の拡散を阻止するために、参加国が共同でとりうる具体的な行動を促すものとして積極的に捉えるべきだろう。特に、アジアにおける地域統合が良い方向に向けて進みつつも、実行力の観点から未だ大きな成果を回収できる段階には至っていない状況では、アメリカの強力なイニシアチヴの下に大きな存在感を持った取り組みが行われる効果は非常に大きい。冷戦後の不拡散への取り組みが一定の成果を挙げたにもかかわらず、イランや北朝鮮の核問題が生じたことで、さらに緻密で大胆な不拡散政策が要求されるようになった。そのような要請に対してアメリカ政府は、2004年に平和利用のための濃縮技術移転の制限までも打ち出した抜本的な改革構想を提出してきたが3、それがあまりにもアメリカ一極の世界をイメージさせ、不平等であると映るために、各国は同意しそうにない。アメリカが「使える核兵器」である小型核の開発を進めるとし、政策オプションとして追求しつづけていること自体も、核拡散防止体制の行方に暗雲をたれこめさせている。1 冷戦終結が間近になると、新聞では毎日のように「平和の配当」が語られ、議会の予算削減攻勢が始まった。1989年末頃までには、自主的に国防費を削減しなければ、議会によって極端に減額された歳出案(2000年までには国防予算を半減させる案)が通りそうな雰囲気が生じた。(Mann(2004) p.202.)しかし、1992年には、FY1992の予算案がザルメイ・ハリルザドとリビー筆頭国防次官補の手によって書かれ、アメリカの巨大な国防予算と対外プレゼンスを維持することで競争の意欲をなくさせ、唯一の超大国としての地位を永遠に保持するという発想を提示した。この最終案は1993年初頭に公開されたが、この時期を境に、アメリカ社会における巨大な国防費に対する疑問は停滞してしまった。2たとえば、チェイニーは議会に対しタカ派的な見解を述べ、ソ連の脅威を最後まで強調した。また、チェイニーはソ連が崩壊し始めると、ロシアにおける大量破壊兵器コントロール能力の緩みを予見し、議会への予算説明に利用した。Mann (2004) p.203.3G.W.ブッシュ大統領が2004年2月に国防大学で行ったスピーチを参照。“President Announces New Measures to Counter the Threat of WMD”Remarks by the President on Weapons ofMass Destruction Proliferation, Fort Lesley J. McNair - National Defense University Washington, D.C.443