ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

国連の総会決議や安保理決議といったフォーマルな手続き、そしてそこで共有される規範的な考え方は重要である。すべてが順調でないからといって、NPT体制を完全に否定するべきというわけでもない。輸出管理体制の整備へのさらなる取り組みに加えて、新たに国家が核保有を目指さないようにする多国間の対話と交渉の枠組みが必要となるだろう。核保有に関する不平等な構造の正当化が難しくても、自国が核武装を断念するかわりに、周辺国や潜在的な敵性国をもNPTの枠組みに引き入れて非核保有国にさせる利益は相変わらず大きい。さらに、インドやパキスタン、イスラエルのようにはじめからNPTに参加せず、核開発を断固決意した国々に比べ、NPTに現に参加している国々は核保有のインセンティヴと決意が比較的少ない可能性が高いので、核保有国の軍縮努力などの得られるべき利益が低下してもとどまる可能性があるだろう。ただし、新たに核保有国が現れ、枠組みに信頼性と利益が少なくなったとき、不信の構造が核保有のドミノ現象を巻き起こす可能性も否定できないのである。(2)アメリカの冷戦後の政策冷戦が終結すると、アメリカの力の一極化が進み、これまで米ソ間でバランスをとる政策を追求してきた多くの国が、まったく異なる状況に放り出されることになった。ロシアや旧東側陣営全体の影響力は低下したので、特に途上国に対してはアメリカが積極的な役割を望んだならば、より多くのことが実現可能な世界になったといえる。核の傘は依然として存在しているから、非核国の同盟国も、アメリカのリーダーシップによって抑えられるはずであった。たしかに、冷戦終結後は各国がNPTに加盟し、核開発を断念するなどし、米露の核戦力削減や在外駐留軍削減は、NPT体制批判を和らげた。大量破壊兵器について厳しい態度と援助を組み合わせるアメリカの民主化支援策も、ある程度の効果を生んだといえよう。しかし、大量破壊兵器の拡散問題は90年代を通じて大きな問題でありつづけた。なぜだろうか。大量破壊兵器問題が、軍備管理問題や警察的行動の問題の中心に躍り出たのは、アメリ442