ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
443/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている443ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

第22回優秀賞兵力で十分であり、軍拡競争に直結しがちな国家間の不信のジレンマも、近隣の国家と非核地帯を形成することで乗り越えようとする試みが現に拡大してきている。他方で、東側陣営の瓦解とともに大量破壊兵器不拡散が軍備管理問題の中心に躍り出、国家を中心とした不拡散問題でも、警察的な取り締まりの方向へ焦点があてられることになった。ところが、冷戦終結で二極構造が解け、大きな脅威が存在しなくなると、旧陣営内では是認されてきた国家間の不平等の正当化が難しくなってくる。アメリカは、冷戦終結に先駆けて海外展開していた戦術核兵器の一方的撤廃を行ったが、その後の国防体制、核配備体制の見直しは、必ずしも不平等に甘んじてきた国の要求する削減度合いには達していないことも、それに拍車をかけた。NPT体制は、不平等の固定化を目指していたが、冷戦後の世界では冷戦中のような米ソ両大国の相互核抑止を中心としたゲームプランの通りには進まなくなってしまっている。無論、不平等が即時に核保有オプションの選択につながるわけではないが、東アジア・湾岸のように緊張が高まっている地域で国家の核ドミノ現象が起こる可能性は依然として拭い去りがたい。現に、1998年にインドとパキスタンが相次いで核実験を行ったことは、国際社会に大きな衝撃を与えた。さらには、東西対立の構図が解消し、米ソによる冷戦中の陣営内に対する軍事援助の大盤振る舞いもなくなると、ひとたび各国に拡散してしまった大量破壊兵器の流出防止が大きな問題となった。ソ連の瓦解に伴い、核物質・核技術の流出も懸念されるようになった。冷戦後に噴出した、非核保有国の核保有への意思、そして核物質・核技術の国や非国家主体への流出という二つの大きな問題はともに、これまでの手段のみによっては防ぐことができない。これまで、日本の論調としては地球市民レベルでの運動と既存のNPT体制との二つの手段で非核ないし核拡散防止を追求していく態度が見られてきた。この立場は、おそらく国連を代表格とした国際組織への誤解からきているといえるだろう。国連といっても、加盟国の政府とは別個の独立主体というわけではない。IAEAのような機関であっても、査察を受け入れさせる強制的な力を持たない。したがって、本来ならば国家間の外交と折衝なしに国連や国際組織が問題を解決してくれるわけではないのである。もちろん、441