ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
407/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている407ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

第21回優秀賞国連機構の行政職員の長として、憲章第100条の精神に最期まで忠実であろうと努めたその真摯な姿勢、その崇高な職業的良心に、筆者は国際公務員のあるべき姿をみる。2.中立的意思決定に向けて1中立的意思決定の限界前節において、安全保障に関わる意思決定メカニズムにおける中立性について憲章に基づく制度的担保を、主権国家の合議体、意思決定現場の人的環境という2つの側面から検証した。結論としては、双方の観点において国連組織の意思決定メカニズムにおける中立性担保には、限界があることが明らかになった。第一に、主権国家の合議体の観点については、国際組織という合議体を構成する主権国家単位の意思決定に着目した。安全保障に関する実質的な権限をもつ安保理の意思決定メカニズムは、大国中心、欧米中心で、191ヶ国中5ヶ国に権限が集中しており、質・数の両側面において、非中立的要素を有する。憲章上の中立性担保措置も不充分であり、スエズ戦争・コンゴ動乱の両ケースにおいて利害関係の深いP5は、国連軍参加から排除されても、関連事項の重要な意思決定において拒否権の行使が可能であった。そもそも、国連は、各加盟国が国益をかけてぶつかり合う利害関係の“草刈り場”である。主権国家が国連に加盟、参加する目的は、中立的意思決定を行うことではなく、国際政治の場で自国に有利な立場を築くことにある。国連組織というフォーラムで自国の政治的立場を主張し、それに対する支持を国際社会からいかにとりつけ、国際機構全体としての意思決定に国益をいかに反映させるかが、国連外交の眼目である。そのため、利害関係により形成されるグループに別れ、水面下で熾烈な外交合戦が繰り広げられるのが、国連の「会議外交」の実態である(吉田、前掲書)。加盟目的が、中立的意思決定とは相容れない国益の実現である上に、構造的に非中立的要素が内包されている合議体組織において、中立的意思決定を行うことには限界が生じざるを得ない。ヒト、モノ、カネ、そして情報が国境を越えて自由に飛び交うボーダレス・405