ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

持者は3名までに制限される。こうした措置は、政治的圧力や利益誘導を排する規制手法として有効であるが、国連の意思決定メカニズムにおいて、国連職員はあくまでサポート役の存在であり、組織的意思決定に直接関わる代表部員とは立場が異なる。さらに、数万人規模の人員全員に対し、こうした厳しい制約を課すことは現実的ではない。従って、筆者は明石同様、国連職員に求められる中立は、ハマショルド的「中立」、職業的良心にのっとり、知的努力を繰り返すことによって、自らの良心において中立という領域を目指すことであると考える。コンゴ動乱では、ハマショルド事務総長の下で現在のPKOの原型である国連軍が派遣されたが、同国内の民族対立への対応を巡って、加盟国の東西陣営は激しく意見対立した。無政府状態の中、国内諸勢力の政争の嵐が吹き荒れる中、国連は中立の原則をどのように確保しつつ、事態収拾を図るべきか。国連の中立性にとり、大きな試練だったと明石は振り返る(明石、前掲書)。その試練は、組織としての国連だけでなく、事務総長であるハマショルドに対しても、厳しく課せられた。安保理決議において拒否権の集中砲火を浴びせたソ連は、その鉾先を事務局体制、そしてハマショルド自身へと向け、激しい中立性批判を繰り広げた。こうした修羅場の時期、ハマショルドの自著においては、苦悶の日々を送る総長としての心の葛藤、慟哭が、聖書の引用を織り交ぜつつ、痛々しく連連と綴られる(「道しるべ」、ダグ・ハマショルド)。アフリカ大陸が米ソ2大国の代理戦争の地と化す最悪の事態を防止しつつ、新興独立国コンゴの主権維持、政治的安定に尽力したハマショルドは、悲劇的な墜落事故により任務途中のまま、同国でその生涯を閉じることとなった。その死後に発見され、陽の目を見ることのなかった総長としての誓約文を同書より引用する。「事務総長として、私に託された任務の全般に、忠誠・分別・良心を以てあたりたい…ただ国連精神にのっとってのみ務めを果たし、行動したい…自らの責務の遂行に当たり、国連以外のいかなる権威、いかなる政府からの指図も求めないし、また受け入れる心算もないことを、私、ダグ・ハマショルドは厳かに誓う」。404