ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第21回優秀賞益に奉仕することによって、国家的利益が守られる」と信ずることは可能か。そして、中立性について第2代事務総長ハマショルドの定義を引用する。「…政治的意味あいをもつ執行的任務を果たすにあたって、国家利益やグループの利益、さてはイデオロギーの影響から完全に自由でなければならないということであるならば、(中略)憲章における国際公務員の理念にとって基本的な重要性をもっている」。明石は、「だれでも持っている政治的偏見や好悪の念を自分のうちにはっきり認め、しかもそれから自由であろうとする職業的良心と知的操作を抜きにしては、ハマショルド的『中立性』は成立しない」と断じる。しかし、現実にはすべての職員がこうした「中立性」=不偏性を維持することに疑問を呈し、それゆえ国連人事において地域間バランスを重視する政治的基準「地理的配分の原則」の重要性を説く(憲章第101条3項では、職員採用に当たり、「なるべく広い地理的基礎」を重視することを義務付けている)。人間は誰しも、個人的な価値観に従って思考・行動する社会的動物であり、その価値観から自由ではいられない。従って、絶対的な中立に立つことは不可能である。人は皆、過去の人生経験を背負って現在の職に就いている。その人間の価値観は、それまでの人間形成において、生まれ育った環境、施された教育訓練等、人生のあらゆる局面の影響を受け、現在の彼(彼女)が成立する。その思考・行動は共に、過去の経験によって導き出された産物である。その価値観を捨て、絶対的中立の立場に立とうとすることは、人間であることを放棄するのに等しい。国連組織が人間で構成され、その意思決定が諸個人の判断の集積である以上、国連に求められる中立性は、非人間的中立であってはならない。政府機関の意思決定における中立性担保の手法として、米国では独立行政委員会方式を多用している。通信・エネルギー等の分野における市場競争の公正や国民の健康・安全を確保することを目的に、中立的判断が要求される規制機能を産業振興等政策機能から分離し、独立化させるためのしくみである。こうした独立的な規制機関においては、規制行政における中立性担保のため、個人の政治信条にまで踏みこむ場合がある。通信規制を司る連邦通信委員会(FCC)では、組織的意思決定を行う5名の委員のうち、同一の政党支403