ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

れぞれの意思が交錯する中で、国家としての意思が形成される。基本的には、本国政府の方針に従うとはいえ、意思決定現場の人間たちの状況判断や交渉能力等、諸個人の思考・行動は、大なり小なり、直接・間接的に最終決定に影響を及ぼす。国家としての意思決定は、いわばそのプロセスに関わる諸個人の判断の集積である。では、意思決定現場の最前線に立つ諸個人は一体、どのような立場で意思決定に関わっているのであろうか。意思決定現場において、諸個人の立場に中立性は担保されているのであろうか。国連組織の意思決定に関わる人員は、2類型に分かれる。第一は、各国代表部で対外交渉を担当する部員。これは、加盟国の国家公務員である。憲章は、総会において各加盟国に対して5人以下(第9条第2項)、安保理においては各理事国に対して1人の代表者を定めている(第23条第3項)。国家公務員は、加盟国それぞれの公務員法に則って行動することが義務づけられる。日本の場合、国家公務員法第96条第1項において「国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当っては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」と規定している。第二は、事務総長の下で資料・情報収集等実務に関わる事務局職員である。憲章第100条は、国際公務員を「事務総長及び職員は、その任務の遂行に当って、いかなる政府からも又はこの機構外のいかなる他の当局からも指示を求め、又は受けてはならない。(中略)この機構に対してのみ責任を負う国際的職員としての地位を損ずる虞のあるいかなる行動も慎まなければならない」と定めている(第1項)。そして、各加盟国は、「事務総長及び職員の責任のもっぱら国際的な性質を尊重すること並びにこれらの者が責任を果すに当ってこれらの者を左右しようとしないことを約束する」義務を負う(第2項)。前者は、国家に忠誠を誓い、国益のために行動することを所属国法で義務付けられる。しかし、後者は、出身国でなく国連組織に対し、忠誠を誓う。明石は、後者の中立性に問題提起する(「国際連合」、明石康)。国際公務員が「自国の国家的利益と、国連によって代表される国際的利益が、時として衝突し矛盾することがあっても、究極的には国際的利402