ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

ることとなる。しかし、実際には、多国間の利害が渦巻く国際機構において中立的意思決定を行い、それを実行に移すという作業は、至難の業である。事実、過去の国連活動においては、その中立性に対し、痛烈な批判が浴びせられたケースもある(コンゴ動乱、後述)。多国間交渉の現場における国益の衝突が、中立を脅かす存在であることは否定できず、中立性を原則に掲げる国連の意思決定メカニズムは、構造的にこうした矛盾を内包している。本稿の目的は、国連の意思決定メカニズムにおける中立性の限界を明らかにすることである。第一に、国連の安全保障に関わる意思決定メカニズムにおいて、1主権国家の合議体、2意思決定現場の人的環境という2つの側面における中立性の制度的担保を検証しつつ、国連組織の性格に特徴づけられる中立性の限界を詳らかにする。第二に、一で明らかにした限界を踏まえ、安保理改革の一環として大きな焦点となっている日本の常任理事国入りが中立的意思決定にもたらす意義について考察を行う。1.意思決定メカニズムにおける中立性1主権国家の合議体の観点から一般的に国連は、「世界政府」「国際機構」という中立的なイメージが強い。国連憲章を読み解いてみると、その目的・原則や、組織・人事等諸活動を支える重要規定において中立の文言は明文化されていないが、中立性担保に資する措置条項は、いくつかもりこまれている。中立性の構成要件とは、そもそも何だろうか。一般論としては不偏不党、つまり、特定利益にくみせず、当事者や利害関係者間においていずれとも等距離を保つ第三者的立場を意味する。国連は、191ヶ国の主権国家で構成される国際的な合議機関であり、その立場はいかなる国益も商業的利益も代表しない。この支柱となるのが加盟国に保障される主権平等である。憲章第2条第1項においては、すべての加盟国の主権平等を原則として掲げ、大国であろうが小国であろうが、軍事力や経済力如何に関わらず、平等に主権保護が確保される。398