ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

避ける、という選択肢は、正統性と結びつきにくいだろう。ソマリアでは人道目的のための国連の強制措置が「失敗」といわれ、旧ユーゴスラビアでも十分な成果をあげることができなかったとの印象が強いが、それでは中立を標榜し続け国連が強制措置をとらなかったならば事態が好転したのか、という観点からの厳密な検討が必要である。さらにいえば、人道危機を見過ごすよりは、迅速に対応して介入することのほうが正当だという主張も生まれうる。現にソマリアや旧ユーゴでは、正統性を付与できる最も有効な機関である国連のもとで介入が行われているのであり、そこで中立性原則を唱えることはあまり意味がない。武力を用いた強制介入がいかに難しいかはこれらの例を見れば明らかであるが、中立性の持つ意味の再考を目標とする本稿で最低限指摘しておくべきことは、当該政府や紛争当事者の同意や要請が得られないなか、国際社会のコンセンサス(例えば国連安保理決議による授権)や人道、人権といった普遍価値を掲げて介入しようとする場面では、中立性のもつ価値は弱まるということである。そこでは中立性よりはむしろ正統性が第一義的に重要であり、「有志連合」によってアフガニスタンやイラクで米国が行った昨今の戦争は、「中立性」ではなく「正統性」を欠く、と非難されたのだ。さらに、人道危機や深刻な人権侵害に対して強制力を伴った介入が求められる場面でなく、当事者の同意を基礎に紛争に関わっていく場合でも、中立性の外観を維持することがどれほどの価値をもつのかは慎重な判断を要する。それは例えばUNTACのポル・ポト派への対応を巡る場面に顕著に見られ、そこでは、ポル・ポト派の協定違反の黙認に限りなく近づくとしても、中立性を標榜して非強制原則を貫くことの方が重要であるとの判断が下されたと考えられる。ヘイニンジャーが述べているように、国連は、平和構築を成し遂げるために、とりわけ、紛争当事者が和平というゴールを国連と共有せず、それに反対して暴力に訴えることを躊躇しない場合に、その中立性を犯すという対価を払うことが必要であるのかどうかを、慎重に決定する必要があるのである63。37663 Janet E. Heininger, Peacekeeping in Transition : The United Nations in Cambodia (New York : The TwentyCentury Fund Press, 1994), p.117