ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第21回最優秀賞ア独自の事情があったからであるし、さらに3-Bでみたように、UNTACにおいても中立性を掲げたことによるデメリットは存在した。さらに、ソマリアで平和強制部隊が失敗したからといって、ブトロース・ガーリが「平和強制部隊」の観念を生み出したその必要性自体がなくなったわけではない。例えば大規模かつ深刻な人権侵害が生じている国に強制的にでも介入するそのような必要性は、途上国の近代化の過程で内戦や宗教的・言語的少数者の抑圧が頻発するだろう21世紀にはますます高まるだろうとさえ考えられる61。とするならば、例えばソマリアの失敗を単純に「平和強制部隊の失敗」と同視し、伝統的な平和維持活動への復帰を唱えるだけでは、問題は何も解決しないことを肝に銘じるべきであろう。その上でUNTACにおける中立性原則の評価を行えば、それは紛争当事者の同意を得た上での平和維持活動において、中立性に固執することが国連の信頼と正統性を高めるための最も合理的な選択肢であったということになるのではないだろうか。紛争各派にパトロンが存在し、日本やオーストラリアなどの多様な支援国も巻き込んで多国間のアプローチがとられたという点でも、カンボジアにおいては中立性原則が正統性と結びつきやすい土壌が形成されていた。そもそもカンボジア和平でUNTACに与えられた責任は、カンボジア全派がパリ協定の精神と条文を守ることを保障するための権威にも能力にも支えられたものではなかったし、国連が暫定政府としてのUNTACによって、信託統治の任を引き受けたものでもなかったため、平和執行はその任務の範囲内ではなかった62。そのような、当事者の同意をもとにしたいわば「招待された介入」としてのUNTACの性格は、中立性を標榜して軍事介入を控えるということが正統性と結びつく、という幸運に恵まれたものであった。一方、ソマリアやルワンダ、旧ユーゴスラビアでの例に見られるように、強制力をもって介入しなければ大量殺戮を見過ごすことになる、という場面では、中立を掲げて介入を61大沼、前掲書p.7962一柳、前掲論文p.613375