ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
375/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている375ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

第21回最優秀賞る。まず、パリ協定という当事者の同意に基づいて行動したUNTACは、その任務の遂行が究極的に紛争4派の「善意の履行」に依存せざるを得ない、という限界を有していた。実際、UNTACの活動は、カンボジア各派が非協力的な態度をとった領域で、しばしば失敗に終わっている。例えば、UNTACは停戦と武装解除を達成することができなかった。それは第1章でみたようなポル・ポト派の協定違反に起因するところが大きいが、UNTACが中立性を掲げて軍事的措置に踏み切らなかったことは、そのままUNTACの限界ともなった。和平プロセスを進行させる上で、UNTACには協定調印者にそれを強制させる権限がなく、その結果ポル・ポト派が兵力をもったまま温存されたことは、選挙後のカンボジアにとっても大きな課題となったのである59。実際、1992年6月に開かれた「カンボジアの復旧・復興に関する東京会議」では、国際社会が8億8000万ドルの支援を約束していたにも関わらず、1993年3月までに実施された援助額は1億ドルに過ぎなかったことなど、ポル・ポト派の脱落がカンボジアの復興の足かせとなった60。また、プノンペン政権との関係においても、UNTACは選挙妨害や支配する行政機関を利用した違法な選挙運動を黙認せざるをえないという限界を有した。そこでのUNTACの対応は、1-Cで議論したようにプノンペン政権に対して中立ではありなかったと評価することもできるから、中立性をどう定義するかにより議論が混乱しかねない。だが、UNTACが強制力をもって介入しなかったという点を捉えて中立性を標榜していたと考えるならば、第一章で詳しくみたUNTACのプノンペン政権への対応は、まさに中立性の外観維持が、現実になされた実行支配の黙認という弱点になることを示している。このように、中立性原則の標榜は、第一章、第二章でみたようなプラスの側面と同時に、UNTACの活動がうまくいかなかった場面でもその要因として大きな役割を演じている。59 今川元カンボジア大使も、UNTACがポル・ポト派問題になんら対処できなかったことを、UNTACの減点の理由としてあげている。水本、前掲論文p.18260水本、p.189373