ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

を獲得してついにはカンボジアで聴取率1位の人気放送局となり46、漫才をまじえた啓蒙番組や客観報道番組を流しつづけた。「カンボジアの国民選挙はラジオ放送に支えられた」47のである。2ラジオ放送のほかにも、UNTACはポスター、文書の配布、セミナーの開催、広報センターの設置を行い、またカンボジア国民に人権意識を受け付けるという意図から人権NGOの育成にも力を入れている。NGOは十数団体が発足し、15万人以上の会員を集めた。ただ、UNTAC人権部門の評価は分かれている。UNTAC人権部門は強制力をもって各派による人権問題に介入するのではなく、各派の強力を得て事態の改善を目指そうとするものであったため、人権団体などから人権侵害を見過ごしているという批判も受けた48。また、そうした批判を受けてUNTACが設置した特別検察官事務所も、実際には凶悪な人権侵害事件の容疑者3,4人を逮捕、拘禁したにとどまった。そこでは、(1)人権問題が生じた際にそれを矯正する行動が取れなかったこと、(2)人種差別的なプロパガンダのトーンを和らげる以外のことができなかったこと、(3)人権を尊重するうえでの重要な改善が行えなかったこと、(4)証人保護プログラムや判事養成コースを設立できなかったこと、(5)行政上の訓練や裁判プロセスを通じて、被告人を拘束することができなかったこと、などが失敗として指摘されている49。確かに、UNTAC人権部門が文化の壁、人権保障の前提条件の欠如、強制力の不行使といった限界を抱えていたことは事実である。しかし、市民の人権教育プログラム開発、初等・中等学校での人権教育、大学レベルでの人権コース導入や、基本的人権に関するリーフレット5000部配布、刑法、裁判法改正、囚人の待遇改善、政治犯の釈放など、人権意識の普及、人権教育、そのための教育者の訓練などにおいては一定の成果を挙げたと考えるべきであろう。UNTACの中立性、またその仲介者としての役割の認識が国民に浸透36446明石、前掲書p.8247 UNTAC選挙部門を統括したレジナルド・オースチン部長の発言。山内康英「カンボジアの選挙と国連によるメディアの利用」p.4248 例えば人権団体Asian Watchは、UNTACはもっと断固とした強制行動(Corrective Action)をとるべきだ、と批判している。49 一柳直子「国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)活動の評価とその教訓――カンボジア紛争を巡る国連の対応(1991―1993)(1)」『立命館法学』第252号(1997年第2号)、pp.412-413