ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

受け入れられない人民党は、選挙は不正なものであったというクレームを突きつけてくることになった。人民党のクレームは、大要以下のようなものである39。第一、投票箱のふたを閉じるシールはプラスティックの強い材料でできていたが、カンボジアの悪路でそのシールが切れるケースが少なからずあった。第二、二重投票防止のため投票した人に浸した特殊なインクが、1週間は消えないはずであったが実際はうまく拭けばとれるので何度でも投票できる、とのうわさが流れていた。第三、投票箱の夜間の管理が十分に徹底していなかった。第四、得票数の集計の際、一部地域ではコンピュータのミスも含めて混乱が見られた。第五、UNTAC選挙部門のカンボジア人要員が特定の政党、とくにフンシンペック党のために不正行為を働いている。こうして人民党は、首都プノンペン、西部のバタンバン、中部のコンポンチナン、南東部のプレイペンの4州で、選挙のやり直しを要求した。人民党の地方軍部と州知事は、不満をUNTAC要因にぶちまけて、人民党が不穏な動きに出る危険性が高まった。しかし、こうした人民党のクレームは、どちらかというと言いがかりに近く、UNTACとしては、人民党が第2党になったからといって、再選挙の要求を受け入れるわけにはいかない。安保理も今回の選挙を、「自由で公正」であるとし、諸党派に開票結果の受け入れを要請する決議を全会一致で採択している40。一方、依然としてプノンペン政権を構成する人民党は行政機構を握っており、カンボジアの軍と警察の大半を掌握している。そうした状況下では、UNTACにとって、プノンペン政権が選挙結果を承認しない状態で新しい政権を創出することはきわめて困難であった。選挙実施に至る過程同様、UNTACは選挙後の対応でも、プノンペン政権の実効支配という壁に直面したのである。2現在からその後の経過を振り返れば、このジレンマ状況の中で突如出現したのが、シアヌークによる「カンボジア国民政府」構想であった。これは、第1党のフンシンペックと第2党の人民党が連合政府を構成し、シアヌーク殿下が国家元首、首相、軍・警察の最高36039明石、前掲書p.96、p.9940明石、前掲書p.101