ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

得なかったのは間違いがなかろう。そこでの中立性の揺らぎは、明石氏がプノンペン政権に警備させることに関して「不本意だった」と発言していることからも窺われる27。活動の生命線をなすプノンペン政権と真っ向から衝突するわけにはいかない以上、UNTACはプノンペン政権に対していわば「弱み」を持っており、プノンペン政権に対して強硬な措置を採ることは困難なものであった。プノンペン政権とて協定に忠実な会派であるわけでもなく28、様々な場面でパリ協定違反となる野党に対する選挙への妨害行為を繰り返し、またプノンペン政権の公務員の汚職や腐敗がたびたび様々なところで取り上げられているから、UNTACはその対応に苦慮することとなる。例えば、UNTAC人権部門で人権違反行為のあったプノンペン政権の公務員を罷免したり更迭したりすることを主張すると、明石氏はプノンペン政権を動揺させすぎてもよくないとの判断を行い、腐敗公務員を免職させるなどの処置を「人権部門の若い人たちが望むほどには大規模かつ徹底的にやらなかった」29という限界を抱えた。2もっとも、UNTACのプノンペン政権の行政・軍事機構への依存が顕著になったのは、なによりもポル・ポト派の武装解除拒否によりそれに対抗する軍事力が不可欠となったからである。ポル・ポト派はカンボジア4派のなかではプノンペン政権に匹敵する軍事力を有しており、それに対抗しうるのは現実的にはプノンペン政権をおいてありえなかった。また、UNTACが活動の時間的制約を抱えていたことも、プノンペン政権重視という現実路線の背景となった。即ち、UNTACは選挙を当初の予定通り実施しなければならないという、次のような内部事情を抱えており、現に存在するプノンペン政権の行政機構に頼らざるを得なかったのである。その内部事情とは、まず、UNTACは過去に例を見ないような大規模な平和維持活動であり、その膨大な予算・人員面での制約から、カンボジアがUNTACに依存してしまうような、引くに引けない泥沼状態はなんとしても避ける必要があったということである。UNTACには40以上の国々が軍事要員や警察要員35627明石、前掲書p.8028プノンペン政権がパリ協定に署名した思惑には、協定による兵員引き離しと武装解除がポル・ポト派軍を崩壊させるための手段となりうるという考えが含まれていた。29明石、前掲書p.74