ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第21回最優秀賞違反や人道危機に際してそれを見過ごすのは中立ではないとの議論も成り立ちうる。しかし、国連が軍事的強制措置をとると、少なくともその紛争当事者からみれば、国連は中立性を放棄したと非難されることになるのである。この点でUNTACが、ポル・ポト派に対して対応が生ぬるい、なぜポル・ポト派に対して軍事制裁を加えないのかという批判を受けながらも、軍事的制裁を思いとどまり、パリ協定の枠内の措置として話し合いと経済的制裁を実施するにとどめたことは、その中立性を議論するうえで大きな意味を持つ。つまり、UNTACは、軍事強制に至らないソフトサンクションを通して、パリ協定というルール違反者としてのポル・ポト派を黙認しない姿勢を見せながらも、強制措置を踏みとどまることで自身の中立的性格をアピールすることができたのである。それは、PKOと憲法の関係についてきわめて敏感な日本をはじめ、関係諸国をUNTACの活動に引き止める上でも重要なアピールであった。さらに、ポル・ポト派への強制措置は軍事的観点からも困難であったと考えられる。1979年、ベトナム軍がカンボジアに侵攻して約20万の兵力を10年間に渡って投入したにも関わらず、ポル・ポト派を制圧することはできなかった歴史も存在するのである17。4また、ポル・ポト派への過度の強硬姿勢をとらないという点で3とも関連するが、UNTACがポル・ポト派の面子を重視しつつポル・ポト派を和平プロセスに組み込もうと様々な工作を行ったことが、ポル・ポト派の理不尽さをカンボジア国内や関係国間に浸透させることになった。パリ協定ではカンボジア4派による総選挙が念頭におかれていたから、ポル・ポト派抜きでの選挙に踏み切るためには、それは必要なプロセスであった。上で見た軍事的措置の不採用と合わせて、ポル・ポト派を取り込もうとする一連の工作はUNTACが中立的存在であることを意図しているということを国内外に知らせる重要なシグナルであったのだ。その意味で、たとえポル・ポト派が総選挙への不参加を公に示していたといっても、ポル・ポト派工作は無駄な努力であったとする今川元カンボジア17『世界』93年10月pp.169-170。353