ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第21回最優秀賞ポト派に対し、パリ協定の義務の履行やUNTACへの協力を求めた一層強い安保理決議が採択されている13。表向きは制裁という言葉を使わず「天然資源保護措置」などと称していたが、ついには同派支配地域への石油禁輸措置にいたるまで、UNTACは「ソフト・サンクション14」と呼ばれる事実上の経済制裁措置を次々と繰り出していった。2ここでのUNTACのポル・ポト派に対する基本的姿勢は、対話と説得はあきらめずにこれを続けるが、非協力的なポル・ポト派に甘い態度を取り続けるのはポル・ポト派内の強硬派を勢いづけることにもなるから、段階的に厳しく対処していこうとするものであった。中立性という観点からUNTACのポル・ポト派への対応を分析するとき、ここで重要となるのはUNTACが軍事的制裁を行わずにあくまで経済的制裁にとどめ、また「天然資源保護措置」などと称してポル・ポト派の面子を重視した対応を採っていることである。3まず、ポル・ポト派に対して軍事的な強制措置を取らなかったということが重要である。ポル・ポト派の武装解除拒否に直面したUNTACは、当初予定していた軍事部門の規模縮小方針は転換し、選挙のための治安維持を第一目標に据えて軍事部門の規模を選挙の実施まで維持するという方向転換を行った。こうしたUNTAC軍事部門の任務そのものの転換は、武装解除という本来の任務の放棄でもある。しかし、あくまで治安維持を目的とし、ポル・ポト派に対する軍事的な介入という形を取らなかったことは、カンボジア国民ないし国際社会に対し、UNTACの中立性を印象付ける力学を有したと考えられる。なぜなら、軍事措置はその対象(相手方)から激しい反発を受け、その際相手方は国連(PKO)は中立ではないという論理を武器に採るからだ。軍事措置は、少なくとも軍事措置の相手方にとっては、介入者が中立でない、と主張するに十分な言い分を与えてしまう。軍事的措置が介入者の中立性原則を破壊し、平和維持活動の遂行が困難になった例がある。ボスニ13明石、前掲書p.5214明石氏による呼称。『世界』93年10月号p.167351