ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第20回優秀賞論を進める。(2)中世ヨーロッパに見る現代世界との類似xxvii田中明彦教授は、「ヨーロッパ中世の世界システムと近代世界システムは、1主体の特微2イデオロギー状況3経済的相互依存の3つの観点で区別できる」とし、「『相互依存が進展する中で、アメリカの覇権が弱まり、そして冷戦が終結した』20世紀後半の世界システム」は、1と2の点において中世ヨーロッパのそれに似ているとした。すなわち、1の点においては、非国家主体の重要度が増してきたことをあげており、2の点においては、イデオロギー対立の終焉をあげている。そして、支配的になったイデオロギーを自由主義的民主主意義、市場経済のイデオロギーとしている。その上で、田中教授は言う。「多様な主体、主体間の多元性とイデオロギーの普遍主義が、『新しい中世』をも特徴付けるとすると、現実に行われている政治では、ヨーロッパ中世に見られるような権威と権力の分離あるいは対立がおこるのだろうか。そのように想定することは不可能ではない。国連が権威を象徴し、アメリカが権力を代表する。」さらに、「国際組織は現代のローマ教皇で、アメリカは」教皇のバビロン捕囚を行ったような「現代のフランスといったら誇張しすぎだろうか」と述べている。田中教授は「ヨーロッパ中世において、正邪の判定をする機関が、ローマ教会だとすれば、現代のローマ教会は、国連安全保障理事だということになる」と言う。すでにみてきたように、2003年10月15日の安全保障理事会において、シリアの分離壁撤廃を求める決議案に対しアメリカが拒否権を発動した事例を考えると、ここでの安保理による正邪の判断が、自由主義的民主主意義のイデオロギー、ここでは人権の擁護、尊重といったイデオロギーを真に体規しているとは考えにくい。つまり、安保理は常に自由主義的民主主意義のイデオロギーを体現するとは限らないのだ。中世においても教皇の正邪の判断はいつxxvii田中明彦『新しい「中世」』(日本経済新聞社、1996)第7章、195頁-220頁323