ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

フト・パワーは説得力、つまり議論によって相手を動かすカとも違う。他人を引きつける魅力である。魅力があれば、他人は従うかまねることが多いxxv。」国連にもソフト・パワーが存在すると考えられるだろう。安全保障(国連平和維持活動=PKO)、開発援助(国連開発計画=UNDP)、環境(国連環境計画=UNEP)、人権(国連人権委員会)、人口(国際人口基金=ユニセフ)、緊急食糧支援(世界食糧計画=WFP)、難民(国連難民高等弁務官事務所=UNHCR、国連パレスチナ難民救済事業機関=UNRWA)などの活動は、多くの支持、信頼、尊敬を集め、国連を魅力的なものにしているのである。この魅力が国際NGOなどの市民レベルの活動に影響を与え、自然に彼らの行動が国連の理念に沿うものにしているのである。そして、時には国連の魅力は国家をも動かすのである。国家はPKO、開発、難民支援の分野における活動に資金、人員の面で支援する。また、アメリカのイラク戦争を始める前に武力行使を容認する安保理決議を求めたのも、国連のソフト・パワーを利用しようとしたからであった。すなわち、アメリカは安保理決議を伴った武力行使は国際世論の支持を集められると考えたのだ。国連はそのソフト・パワーを利用されるのではなく、自己の理念を実現するために自ら利用する方法を模索しなくてはらない。特に国際政治の場において。ナイ教授は「ハード・パワーとソフト・パワーは関連しあっており、互いに補強しうる関係になりうるxxvi」と言う。しかし、国連は加盟国にかりる以外はほとんどハード・パワーを持っていない。逆に、そのことが国連のソフト・パワーを高め、影響力をも高めてきたと言ってよい。ハード・パワーの行使、特に武力の行使にはしばしば強制力が伴い、それは国連の理念にそぐわないのである。ソマリア介入がよい例であろう。介入に際し、国連はアメリカ兵をその指揮下におき大きなハード・パワーを得たが、国連自体が紛争の当事者となることで国連の威信は大きく傷ついた。国連はハード・パワーを使うのではなく、強制力を伴わないソフト・パワーを使うべきなのである。次に、国連とそれを取り巻く環境が、中世ヨーロッパに類似していることを指摘し、議322xxvジョセフ・S・ナイ『アメリカへの警告』(日本経済新聞社、2002)32頁-33頁xxvi同脚注xxv 34頁