ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第20回最優秀賞おわりに現在、民族紛争が国際社会的に問題なのは、その影響がグローバル化するからである。そしてその問題を処理できるのは国連をおいてほかにない。なぜなら、特定のイデオロギーを持つ同盟諸国や連合諸国が紛争の処理をしようとすると、そうした国々の価値観を押し付けることになり、一時的には沈静化したかにみえても、結局民族のナショナリズムにあおられて、紛争が再燃してしまうからである。ではなぜ、国連なら可能なのか。それは国連の中立性にある。国連の起源そのものは戦勝国による戦後秩序維持メカニズムとして考案されたものだが、国連の民主化をはかることによって中立性は確保できる。しかしながら、現体制の安全保障理事会では、拒否権など民主的といえないシステムが残存しており、改革の必要がある。他方、民族問題は帝国主義時代あるいは冷戦時代の負の遺産から発生しているという側面があり、大国の影響力の強い国連のシステムそのものに否定的な立場をとる諸国もある。そうした民族の紛争解決にあたっては、国連の機能の限界を踏まえた上で、急ぎ過ぎず、慎重に対処すべきである。そうでないと、国連が一当事国の主張のみを聞き入れたと誤解され、紛争は解決するどころかこじれる危険性があるからである。289