ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

念される安全保障理事会において、一部の大国に引きずられて決議しては、中立的な決定とは決してみなされないからである。中立性が損なわれた決定を、紛争当事国は絶対に認めないであろうし、逆に主権への干渉と非難することが予想される。国連は中立を尽くしてこそ国際社会での価値があるのである。コソヴォのときの国連の態度のように、NATOの行為を黙認すること、妨害しないことが、国連にできる現実的な関わり方であるように思える。意思決定が遅いことを非難されても、なにも行動できない無能な機関と中傷されても、耳を貸さずにひたすら中立性を維持すべきである。遅過ぎては対処不可能な問題に対しては、緊急時の手続きの規定を設けることで乗り越えればよいのであって、その手続きを踏んだ行動については国連が法的に免責する旨を約すれば、行動した当事者(国)を保護することができる。c紛争後の処理紛争終結後、新政権が誕生するまでは、もっとも政情不安定の時期である。この時期に世界の目が配られていないと、再び紛争が再燃しかねない。この作業こそ国連以外の団体には代替不可能である。なぜなら高度な中立性が求められるからである。しかし費用の問題が言われている。武力紛争の発生は、PKOの展開にみられるように、国連をはじめ国際社会に、紛争後の平和維持や国家建設の負担を強いている。しかも古くは1964年以来駐留している国連キプロス平和維持軍、そして近年では93年以来派遣されている国連グルジア監視団の例に見られるように、民族紛争へ介入したPKOの展開は長期化する傾向にある。紛争後には、民族浄化が進んでいるだけに、むしろ対立関係の構図が鮮明になり、いつ紛争が再燃するかわからない状況なので撤退できないからである。またユーゴスラヴィア紛争後のボスニアやクロアチアでの国連やOSCE(欧州安全保障協力機構)による復興支援にみられるように、国際社会の紛争後の国家建設にまで関与することを迫られている。そのために、国際プレゼンスは長期化し、その膨大な経費を国際社会が負担することになってきた18。こうした費用の問題を考えると、紛争予防に労力を裂くことがもっとも合理的である。28818 ?吉川元、加藤普章「マイノリティと政治学・国際政治学」『マイノリティの国際政治学』、pp.12-12,有信堂高文社、2000.