ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第20回最優秀賞b紛争の解決すでに紛争となってからは、周辺諸国が民族紛争を経済的に、武器供与して支援するのを防止するようにする。また、カンボジアやソマリアでの停戦を取り付けるための外交努力のように、紛争国の仲介役となって停戦合意を取り付けるよう努力することである。このとき注意すべき点は、国際政治の歴史からいって、国連は欧米の論理にその価値観をもっていると考えている国があることを常に意識することである。つまり、世界的に同意を得ていると思われている活動であっても、別の価値観を有する民族からは、同意をえられないどころか反発されることがありうるのである。その背景は、帝国主義時代の負の遺産であったり、冷戦時代の草刈り場とされたことやアメリカのような大国への敵対心であったりする。民族問題を抱える側からみれば、独立問題の原因はかつて自国が植民地であったことであり、あるいは冷戦時代に大国に翻弄されたことであり、その責任の一端を担う大国が牛耳っているかのような国連は信用できない、という論理がある。この点に配慮しなければ、国連は「世界のための」国連ではなく、「一部の国々のための」国連とみられ、本来の機能が十分果たせなくなる。具体的には、民族問題において、特定集団を支援しないことが重要である。特に宗教問題が絡んで世界を二分しそうな問題については、国連はどちら側かに肩入れしているかのような誤解を与えないように慎重を期すべきである。ここまでで言えることは、国連にしかできない紛争調停もあれば、国連の能力を超える調停もあるということである。国連に過度に期待することは現実的ではない。限界を知ることが重要であり、限界を知った上、即効的な解決を急ぐのではなく、長期化を覚悟して忍耐強く、慢性疾患を治療するかのようにひとつひとつ小さい問題から解決していくのがのぞましい。また、コソヴォの虐待のように緊急を要する場面では、ゆっくり議論していたのでは、人道的破局をじっと待つことになる。だからといって、NATOが国連安全保障理事会に武力行使容認を求めるのに応じて、安保理がそのまま強行に決議したのでは、国連の信頼が揺らぐ。というのも、国連が信頼される理由はその中立性にあるのであり、民主性が懸287