ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第19回奨励賞のNGO・NPOに難民支援や戦後復興を委ねることでその傾向は一層強まる。「非政府」・「非営利」が免罪符となって「介入」や「制裁」は正当化されてしまう。『地球市民の時代』では、国家と地球市民が結託すればどんなことでも可能になるのである。私のようなひねくれ者には、この数年の『対人地雷禁止キャンペーン』や『小型武器破壊運動』ですら、最悪のシナリオへの地ならしのように思えてくる。対人地雷を踏む者が誰か、ライフルで狙われる者が誰かを考える時、私はそれらの運動を手放しで称賛する気持ちにはなれない。何故その後すぐに『空爆禁止キャンペーン』が続かないのか?――この疑問に答えられる者はいないはずである。「国家主権が人道に対する罪の盾に使われてはならない」ことは確かである。しかし、その「盾」に対する「矛」もまた安易に使われてはならないことも自明である。東西冷戦の終結によって旧連合国の足並みが揃い始め、「正義」への合意は容易な環境が整いつつある。反面それは五大国の拒否権が安全装置として機能しなくなることを意味する。第二次大戦から二世代・六十年を経て、戦争の悲惨さを記憶する生き証人はもう数えるほどである。制裁と報復の無限の連鎖――新しい時代の「新しい戦争」、「盾」と「矛」のぶつかり合いは既に始まっている。その「矛」をコントロール出来るのは国際連合しかない。逆に言えば、国際連合次第で新しい時代の「新しい平和」も実現出来るのである。国家と地球市民の間に立ち、国際連合は『地球市民社会の世紀』へのソフトランディングを演出すべき役割を担っている。新しい時代の新しいルールを自ら築いていかなければならないのである。国際連合にとって大切なのは、批判を恐れてはならないということである。批判の中で立ちすくむことがあっても構わない。批判されない状況こそ恐れなければならないのである。何故なら、私達が必要としているのは、正義の為に猪突猛進する「勇敢な保安官」ではなく、むしろ正義の危険性を十分に知る「臆病で慎重な保安官」なのだからである。267